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ウィンストン・チャーチル /ヒトラーから世界を救った男のTSのレビュー・感想・評価

4.1
【和平か反撃か…】87点
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監督:ジョー・ライト
製作国:イギリス
ジャンル:ドラマ
収録時間:125分
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2018年劇場鑑賞34本目。
この三日で5本見ましたがこれが一番ダントツでよかったです。はっきり言って、2時間ほとんどがチャーチルの苦悩や葛藤を描いているものなので、戦争シーンなどを期待して見に行くと拍子抜けするかもしれません。しかし、そんなものなくても十分すぎるほどに迫力がある作品ということがわかります。見終わって、ゲイリー・オールドマンがアカデミー賞主演男優賞を受賞したのは当然であると思われました。

第二次世界大戦下のイギリス。めまぐるしい政権交代の末、政界の問題児とも言えるウィンストン・チャーチルが首相となります。チェンバレンなどの一部の者たちはヒトラーとの和平交渉を望みますが、チャーチルはそれを断じて許しません。今作はそれがメインでありそれが全て。『リンカーン』のような構成であるため、歴史が嫌いな人からすると退屈されるかもしれません。しかし、チャーチルが何故国民から慕われたのか、チャーチルが何故これ程有名であるのかを思い知らされます。
元々チャーチルは頑固であり、国王からも怖い奴と言われる程です。初めて来た秘書に怒鳴り散らすくらいですし、今作ではチャーチルは決して神格化して描かれていません。むしろ、政界から嫌われていた問題児であった事が示されています。

ところが終盤に迫るにつれてチャーチルの存在感が浮き彫りになってきて、ラストの演説では鳥肌を立たされてしまいます。ヒトラーも相当演説が巧かったのですが、チャーチルも負けていない。キケロやホラティウスなどの名言を引用してくるあたり、かなりの博識であるとも読み取れます。特にチャーチルが地下鉄の電車に乗り国民の意見を聞くシーンは天晴です。そして、歴史的にいかに為政者が民衆の意見をろくに聞かないまま政治を行なってきたかということも想像出来ました。案外民衆というものは熱い存在なのです。自分の国が滅ぶくらいなら戦って死を選ぶ。その先陣をきった指導者は英雄として後世に伝えられ、和平だのして国を売る奴は歴史的に蔑まれてしまいます。中国史で言うならば、主戦派の岳飛と和平派の秦檜がそれに当たるでしょう。チャーチルは岳飛か秦檜か。。チェンバレンやハリファックスは岳飛か秦檜か。。言わずもがなでしょう。

チャーチルの趣味などがわかるのも今作の醍醐味ですし、同年のアカデミー賞作品賞にノミネートされた『ダンケルク』と連動しているのも良いポイント。『ダンケルク』で扱われているダイナモ作戦は他でもないチャーチルの発案だからです。
今作では戦争シーンが皆無の代わりに、凄まじいほどの情報が内在されています。戦争シーンをふんだんに鑑賞したい場合は『ダンケルク』を、濃厚な会話劇を鑑賞したい場合は今作を見よとのことでしょう。

アメリカのフランクリン・ローズヴェルトとの会話も感動しましたし、大敵であるヒトラーが一切映し出されないのも逆に印象的。目に見えない敵が一番恐ろしいものです。総じて良作。今作はこれから先語られるであろう伝記映画として名を残しそうな気がします。
ちなみに今作に出てくる国王はジョージ6世であり、かの『英国王のスピーチ』で出てくる吃音症の国王と同一人物です。
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