ベルサイユ製麺

巫女っちゃけん。のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

巫女っちゃけん。(2017年製作の映画)
3.6
おお、久しぶり!
地方創生作品でございます!この手の作品って、抑えるところさえ抑えとけば…的な短絡な物も無くはないですけど、単純にいろんな土地の風景や文化、方言とかに触れられるので意外と好きなのです。自分は旅行を全くしないのでプチ・トリップ感なのだよ。
今作は福岡県福津市の宮地嶽神社というところが舞台になっております。
しかし、タイトルの『巫女っちゃけん』て、どんなニュアンスなのだろ。ちゃ…けん?お茶犬とは関係有る?

就活に躓きまくっている しわす は止む無く家業の神社を手伝っている。それはそれは伝統ある有名な神社なのだが、信心の無いしわすにとってはなんのモチベーションにもならない。何でもいいからとっとと就職しちまいたい!
仕事ぶりはいい加減。ダラダラ〜っとかったるそう。毒舌吐きまくり…。宮司のとうちゃんはしわすを叱るでも無く、ひたすらしわすを見守ります。
そんな折、神社に異変が相次いで起こります…。いつのまにか食べ物が無くなる。賽銭が減ってる。挙句、明らかな放火によるボヤ騒ぎ。そしてある晩、しわすは犯人に遭遇します!巻いた新聞紙に火を点け佇む、ほんの4、5歳くらいの少年を!
追うしわす!逃げる少年!追いついた、と思ったらカッターで手を切りつけられる(!)しわす!距離をとり対峙して、懐中電灯をぶん投げる(‼︎)しわす!見事脳天にクリーンヒット…でお縄でございます。
少年の名はけんた。けんたは喋らない。身寄りの事も、何処から来たかも分からない。止む無く暫く神社で預かることに。けんたの聞かん坊ぶりは一向に治らない。みんなそろそろ我慢の限界…って、頃合いで、やっと母親が迎えに来たのだが、あー、ヤバァー、この手の母親かぁ。心の中の正義感がムクムク大きくなるしわす!

しわす役、有瀬広州いや広瀬アリスさん。『氷菓』を観た時、絶妙にピンと来ないなと思ったものですが、今回は良い!ガサツで不真面目、口が悪い…内面まで歪んで見えるツラ構え。コッチの方が全然魅力的です。漠然と広くに好かれそうなキャラクターとかよりずっと良い!父ちゃんはリリーさん。無口で、おっとりしてるんだけど、キャパの大きさは伝わってきます。やっぱスミ入ってるだけあるよね☻

始まった瞬間に分かる映画のトーン。お間抜けな劇伴、完全コメディ仕様の台詞回し。良い!邦画に良くある、シリアスなつもりなのか、コメディなんだか、舐めてんのか分からない様な中途半端な演出・脚本が一番ダメだと思います。
“放火”“カッターで切りつけ”“懐中電灯でノックアウト”とかの描写に象徴される様に、結構荒んでて、ササクレ立ってます。地方創生モノ特有の安穏としたイメージからすると意外な感じで、それは描写上だけの事ではなくて話の核になる少年けんたの家庭の話、何をやっても空回りで孤立するしわす、彼女の問題、彼女と家族のこと…。なかなかにシビアなお話です。
要所要所で、しわすの就職面接のシーンが挿入されます。表面上はそれらしく振舞っても、滲み出してしまう“空っぽ”感。自分には全然コメディ的なシーンには思えなかった…。

けんたを巡る物語は、しわすの暴走によりどんどんシャレにならない方向に転がっていきます。果たして、あの無気力しわすを動かすモノは何なのか?しわすはけんたに何を思うのか?

この物語、個々のエピソードが分かりやすく決着しません。ただ心地良いだけのご都合主義的な展開にならない。ここを宙ぶらりんだと感じる方も結構いらっしゃると思います。個人的には、コメディだろうがドキュメンタリーだろうが、分かりやすさに逃げないというのは信用できる態度だと思いました。
無鉄砲に衝動的に動いても、それでも解決出来ない事柄に直面した時、しわすは一歩一歩成長しているのだ。

ジャケットのキービジュアルで、黒いゴミビニール袋を被っているのが、けんたです。これ、年齢性別にもよりますが、連想するのはウルトラマンの“ジャミラ”ではないですか?ひとりぼっちで月に取り残されて変わり果て、怒りに我を忘れて、口から火を吐き大暴れする怪人(?)です。…まあ、それはこじつけ過ぎかもしれないけれど、映画のラストショット、セピア色のあるシーンを観た瞬間に、ああ、自分はこの作品の事を舐めてかかっていて、きっと大事な事をいっぱい汲み取り損ねてしまったなぁ、と酷く後悔してしまいました。…情け無い。広瀬アリスの良い面はちゃんと分かったんですけどね…。いつかもう一回。
もし興味を持たれて、観てみようかなー?って方は、けんたとしわすがそれぞれのシーンで何を思っているのか想像を巡らせながら観ると良いと思います。おススメ…で、…す!