ベルサイユ製麺

女王陛下のお気に入りのベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
3.9
圧倒的に面白い!
…分かりやすいコメディ映画や演芸場みたいな“笑いに行く場所”に出かけて自由気ままにゲラゲラ笑うのも勿論結構なのですけど、真逆の環境、例えば職場の朝礼中とかみたいな明らかに笑っちゃダメな場所でおかしくなっちゃって笑いを堪えている時って、不思議なくらい面白みが暴れますよね。要は、禁じられた事はしたくてしょうがないのが人間の性ってことでしょう。
それと、誰かを・何かを笑っていたつもりなのに、いつの間にか自分の哀れさを笑っている事に気付かされて苦笑…って事も有りますね。…まあ、他人を嘲笑うのよりは余程健全なのでは?
今作のダークなコメディ要素の効きかたは正にそんな作用を構造的に内包しているように思えます。


18世期。フランスとガンガン交戦中のイギリス。
アン女王は、孤独さ・意志の弱さをつけ込まれ、愛を餌にその実権を幼馴染みのサラに握られていた。
サラの従姉のアビゲイルはかつては貴族の出だったが落ちぶれ、流され、今はアン女王の召使いとして働く事になった。
ひょんな事からサラの側に付き、共にアン女王の世話をする事になったアビゲイルは、やがてアンとサラが特別に深い関係である事を悟る。
サラの目を盗み権謀術数でアンの寵愛を受けるようになったアビゲイルは、サラと激しく衝突するようになる…。


アン王女が…哀れ。哀れ・オブ・ザ・イヤー。アワレ・ドーム受賞。そんな哀れな怪物が口から吐き出す鳴き声を、自分に都合良いように響かせていたのがサラだったワケですけど、別段彼女が猛獣使いだった訳では無くて、彼女自身も怪物で、ガッチリ共依存してたって事なのだと思います。
で、この2人に付け入る隙アリと考えたアビゲイルは、儚く美しい容姿と、裏腹な腹黒さと舌遣いなどを武器にサラにとって変わろうとした訳ですが、悲しいかなアビゲイルには怪物をハンドリング出来る器は無くて…という。
どの登場人物も特殊な境遇過ぎて、そのまま感情移入するのは困難なのですが、細かくポイントポイントで見ていけば痛いほど気持ちが分かってしまうってとこがいっぱいあります。
孤独さ。自己憐憫。猜疑心。嫉妬。優しくされたい。ケーキ吐くほど食べたい…。だから、全体としてダークで笑えるコメディなのは間違い無いのだけど、登場人物が全員自分に見えてしまう『インサイド・ヘッド』な瞬間も…。
最初から最後まで、幸せそうな人なんて誰もいませんでしたけど、共依存から結果抜け出したサラは勝利者とはいえるのかな?男達はみんな役立たずで、フルーツ投げたり、アヒルのクビすこすこしたり、戦争してるだけのバカばっかりですよ。
ラストシーンの倒錯したビジョン、不穏すぎる劇伴。細かく分析なんて出来ませんが、気分はもう最悪。これは最高の出し抜き合い・騙し合いエンターテインメント。いきなりのビッグバジェットにちょっと不安感も有りましたが、蓋を開けてみれば本質は一切変えずに、見事にチューニングされた絢爛豪華バージョンのヨルゴス・ランティモスワールド。この人は抜かり無しです。完璧。

個人的には、(何故か)ヨルゴス版のX-MENとか観たい気がするのですけど、流石に居た堪れなさ過ぎて、カルト教団の末路みたいな話になってしまうかな?…それやっぱ観たい!