ベルサイユ製麺

運び屋のベルサイユ製麺のレビュー・感想・評価

運び屋(2018年製作の映画)
4.5
だれのせいでもなく いかれちまった夜に
あのこは運び屋だったぁ♪

もうご機嫌で歌い出したい気分です。そして落涙…。これはホントに素晴らしいよ!


1日だけ咲く美しくはかない蘭”デイリリー”の栽培に、家庭を顧みず心血を注いだ男アール。時は流れ、いつの間にか職場、住居のみならず、妻、娘、孫娘からの信頼も、何もかも失ってしまっていた。
意気消沈のアールにある日声をかけてきた男リコ。アールが数十年来の無事故無違反のドライバーだと聞き、彼に仕事を持ちかけたのだ。


最高傑作!…であるかは、初期作もほとんど観てないし、今記憶の中の『グラントリノ』と比べてみてる最中なので保留。…しかし傑作なのは間違いないです!
前作『15時17分、パリ行き』は…確かに凄かったものの、その余りに前衛的な作風に先行きに不安を覚えたのも確かでして。だからこそ今作のすんなり飲み込めるストレートな作風とダイレクトなメッセージに急所を二度撃ち抜かれました即ち絶命!

それにしても、アール爺さまのなんたる自然体ぶりよ…。銃口を向けられようと、最悪の状況で職質受けようと、堂々と立ち回り飄々と受け流す。剰え周りを和ませてしまう。その姿がイーストウッドと=かと言えば、まあ違ったからこそこうして映画を作ってるのだろうし、一種の憧れのようなものでもあるのかもしれない。
ホイホイと仕事を引き受けて、分厚い礼金にホクホクのアール爺。いやぁ、噂には聞いていたけど、お金って有る所には有るものですな。でも“お金で時間は買えない”。当然命も買えない。寧ろそれらを燃やし切った焼け跡にお金が残っているだけだ。ホントのアール爺さまがホントにそんな事を言ったのかは定かで無いけれど、そのセリフを入れたのはイーストウッドの実感有りきだと思います。あんな、アメリカの象徴みたいな人から、そんな言葉が聞けて、ホントに嬉しい。
イーストウッドは言わずもがななのだけど、ブラッドリー・クーパーがまた素晴らしかった。思えば彼も、“病めるアメリカの肖像”みたいな役(とアライグマ)ばっかり演ってきた人だ。彼ら2人の語らいのシーン。特に逆光の中で浮かび上がるシルエットには泣きそうになってしまった。

最後、××も有りそうだったけど、素直に×を×××る展開にはストレートに打たれました。ヤバイ物を運ぶ事自体は大した罪では無いと思うんだけど、依存症の人を生んでしまうのはとてもとても罪深い事です。アールが手にした金は、多くの人が、時間や命を燃やし尽くした後に残ったものだもの。だから、彼の判断は正しい。
個人的に『グラン・トリノ』のラストでモヤモヤしたのは、あのギャング共が人を××する覚悟を持っていたのか?ということで、そこにいくと僅かなモヤモヤすら遺さない今作の締めくくりは完璧だと思いましたよ。
…うん。自分の観た限りは、今作が彼の最高傑作です。そんで、これから何度も何度も最高傑作を塗り替えて欲しい!!

あとやっぱね、彼が主演を張らなきゃダメなんですよ!