eucalypso

移動都市/モータル・エンジンのeucalypsoのレビュー・感想・評価

2.5
人類が移動都市派(ヨーロッパ)と反移動都市派(アジア)に分かれ、わずかに残る資源を争奪するという設定はいくらでも面白くなりそう。なんだけど。

2010年代のSci-Fiアートの旗手ことイアン・マックェー(Ian McQue)が描いた個性あふれる各移動都市や飛行艇のコンセプト・アートは実に魅力的。

なのに、本編では冒頭を除いて都市があまり移動しないし、なんならお互いに捕食しない、笑。ネパールとインドを適当に混ぜたような絶壁都市(移動しない)もチラ見せのみで、壁を挟んだ「二つの塔」みたいな大合戦にならない(ピーター・ジャクソンだからって期待の方向がズレてる)。

主役2人を食ってる空賊の韓国系女性リーダーがキャラとして練り込まれてないので、産業革命時代に宝塚なコスプレイヤーが現る、みたいなアンマッチ感。

見た目はターミネーターで復活者と呼ばれる異形のヒューマノイド、シュライクは唯一異彩を放つが、恨み節で自滅。ヒューゴ・ウィーヴィングも小悪人風情。弱い。なんかね、全体的に感じる昭和の息吹。

車輪つきの都市に数百人の人間が住む階級社会のリアルが担保されてないのが問題。花壇に水をやる作業員がいたりして、資源が枯渇してるのにそんな余裕あるの?とか、食料はどう調達してるの?とか、市民は為政者に洗脳されてるのか他の都市を侵略する場面でも拍手喝采してるだけでバカなの?とか、要は身に迫る感がない。

原作はティーン向けのヤングアダルト小説らしく、あまり目くじら立てても仕方ないけど、VFXに注力して人間ドラマはおざなりという、ブロックバスター映画あるあるなので、配信ドラマの方が題材としては向いてたのでわ。ピージャクは企画と脚本で参加。監督はスター・ウォーズ好きらしい(最後にまさかの大ネタを投入...)。

壮大な大コケということで、スチームパンクつながりで思い出すのは「スチームボーイ」。新しき酒は新しき革袋に、じゃないけど、古めかしいガジェットに古めかしい物語を当て込んでも観客は振り向いてくれないんだな...と思った。

全盛期の宮崎駿やテリー・ギリアムだったら、この素材を七転八倒の冒険活劇に調理できたと思うが、それはそれ。スチームパンクを映像化する無謀なイバラの道が途絶えないことを願う。
eucalypso

eucalypso