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若おかみは小学生!のeucalypsoのレビュー・感想・評価

若おかみは小学生!(2018年製作の映画)
3.5
ジブリ伝統芸能を魅せる、マッドハウス版千と千尋、または、おっこ版おしん。

スタジオ・ポノックの動向にそそられない宮崎駿好きとしては、「茄子 アンダルシアの夏」が超絶素晴らしかった高坂希太郎が久しぶりに監督した本作にジブリの本懐、ありうべき継承を見る思いがした。

キャラデザは最初「目デカッ!」と思った。おっこの顔が俯瞰でコケシになり目が作画崩壊寸前まで顎に寄ったり、空に浮かぶウリ坊の両目がつながって離れたり、高坂氏が作画監督した「風立ちぬ」に通じるレンズとカメラの実験わ、がそこかしこに。

おっこがお尻を突き上げて雑巾がけしたり、大粒の涙を流すのは、千尋がダブる。他にも「千と千尋の神隠し」との共通点が多い。

・子供が最初は自分の意思ではなく労働に従事する。
・千と千尋では両親は豚にされ、若おかみでは両親は○○、作中不在に。
・ハクもウリ坊もモノノケで、最後に主人公によって呪縛を解かれる。
・アウディとポルシェ。外車が異界と現実界を横断するツール。
・湯屋と旅館。ピンフリまつきの巨大アミューズメントパーク旅館は湯婆婆の湯屋にソックリ。
・湯屋/旅館に来るお客(神様/人間)は心身の掃除、癒しを求めて来る。彼らと交流することで主人公は成長。

ジブリっぽくないプリキュアな造形の敵役、ピンフリまつきがユニーク。いきなりジョブズかよ!とツッコミ入れた「〜by〜」の格言ギャグや医食同源に関する博覧強記など、スマートな経営者タイプで、おもてなし&町おこしのプロ、ちっともワルくないどころか、ずっと意地悪で苛烈だった「ハイジ」のロッテンマイヤーさんや、ルカ版「サスペリア」の少女漫画地獄篇に比べたら、天上人かと(それ比べちゃいかんて)。

占い師のグローリーは併映で観た「ペンギン・ハイウェイ」ともつながる、子供が憧れるお姉さんキャラ。

声だけで不穏なヤサグレ感を醸し出す木瀬役の山寺宏一はスゴいなと。

出っ歯の素朴系田舎育ち少年のウリ坊はジムシー+コナン。屋根から落ちる峰子を助けようと一瞬コナン走りするところでウッとこみ上げるものが。

鈴鬼は、皆が働いてる中で1人怠けたり、スイーツを盗み食いしたり、身勝手で気ままだが、旅館にお客を呼び寄せてたのは彼で、キュゥべえ的影のフィクサー(監督インタビューによると、椅子の上で胡座をかく仕草は宮崎駿本人を模したとのこと)。

露天風呂プリン(黒い物体は餡子かと思ったら黒豆のペーストだった)、ガスパッチョのゼリー、バルサミコ酢ソースのステーキ(塩は満遍なくスプレー)、美味そうな料理がいっぱい。

高坂希太郎の地に足つけた演出はきめ細やかで、どちらかというと宮崎駿より高畑勲寄り、ファンタジー成分は少なめで、カオナシが暴れない現実路線の千と千尋というか(しつこい)。

怪異の表現も控えめ。冒頭の神楽のお面、鯉のぼり、ハウルっぽいグローリーの初登場シーンくらい。アニメ的なハッタリはかなり抑制されてる。

グローリーとのドライブ途中、事故のフラッシュバックが起こる激リアルな描写は、本作がいかに真正面からPTSDとそこからの救済を描こうとしてるかを示す。

であればこそ、出会ったばかりのおっこに若女将になってくれとウリ坊が頼み、周りの大人もすぐに同調するのは性急すぎるし、シェーのポーズで拒否ってたおっこが女将になる心の動きをもっと掘り下げて欲しかったかも(宮崎駿も成長プロセスをうっちゃる傾向が強いし、90分の映画にそれを求めるのは贅沢だけど)。

出てくる人は正しくて真っ直ぐで善良な人ばかり。仕事のために他我を通し自我を滅す、どんな仕事も裏を返せばやりがい搾取のブラックという、大人な事情もしっかり表出。

クライマックスのアレは泣かせに走ったなと(涙腺崩壊したけど)。一見無関係に見えた人物が事故で繋がるという作劇は「ミスター・ガラス」と同じ。

その直前、おっこがまつきの旅館を訪れる下り、竹林の闇(草履の鼻緒が切れる)とライトアップされる庭の対比、そこからの敵陣での波乱のドラマをいやが上にも期待させるが、意外と肩透かし。

各エピソードはやや断片的で、おっことまつきが神楽で舞うというラストに収斂していかないので、まつきとの絡みにもう少しボリュームを割いて欲しかった。まつきが弱音を吐くのが、神楽の直前のみなのが弱い。

不勉強で、本作で初めて脚本家の吉田玲子を知る。「夜明け告げるルーの歌」もやってたとわ。

クレジットには、賀川愛、大塚伸治、本田雄、男鹿和雄と、ジブリを支えたアニメーター、美術監督の名前が(マッドハウスと関わりの深い福島敦子も)。鈴木慶一の音楽も地味ながら良かった。

演出と脚本のタッグで作画アニメとしてのクオリティも担保された反面、まとまりと収まりが良すぎて、アニメーションとしての飛躍、跳躍がないのが個人的に残念だけど、それは美点でもあり、「この世界の片隅に」が蒔いた種の大きさを確認。
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