こたつむり

ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめのこたつむりのレビュー・感想・評価

4.0
★ 愛は、いつだって難しい

何を書けば良いのか迷う作品です。
基本的には“普通の恋愛物語”。
男女が出会い、恋に堕ち、障害に直面し…という恋愛の流れは古今東西変わりません。

ただ、本作で特徴的なのは主人公の出自。
彼はパキスタン出身なので、決まった時間に祈りを捧げ、結婚相手は“親が決めた”相手から選ばなければならない…そんな戒律(自国の伝統)に縛られているのです。

そして、見初めた相手はアメリカ人。
たとえ本人同士が良くても、違う文化が融け合う時はひと悶着あるのが世の通例。特にアメリカもパキスタンも“家族”を大切にする文化ですからね。その障壁はとても高いのです。

と、ここまでは前段。
本当に大切なのはこのあとでした。
そして、この先は予備知識を仕入れずに鑑賞して戴きたい所存。何しろ、自身の“価値観”が顕著に投影されますからね。無地のキャンパスが白くなるのか、黒くなるのか…は、自分次第なのです。

また、作品としては上品な仕上がり。
音楽で揺さぶったり、刺激的な映像で視覚に訴えかけたり…と強引な展開はひとつもなく。感情の流れを丁寧に描いているので、その繊細な感触を優しく味わってもらいたいのです。

特に二人を取り巻く環境に着目してください。
主人公の家族、彼女の家族、友人関係…彼らの方向性は違っても、存在するのは“優しさ”。個人的には《彼女のお父さん》がツボでした。一生懸命に“名言”を口にしようとしても空回りする様は、微笑ましいほどに“人間臭い”のです。

ちなみに彼の“名言”に返答するならば。
「本当に“大切なもの”は何があっても手放してはいけない」ですかね。うん。今、僕は良いこと言いましたよ。皆様方も重要な場所でお使いください。

まあ、そんなわけで。
コメディ要素は少なくても、筆致としては軽快。ニヤニヤと、モヤモヤと、ジワジワが止まらない素敵な物語です。自身にとって“大切なもの”を失う前に。また、祈る回数が少なくなるように。積極果敢にオススメしたい作品です。
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