umisodachi

シェイプ・オブ・ウォーターのumisodachiのレビュー・感想・評価

4.0
ギレルモ・デル・トロ監督の最新作。

声の出せない女性と、異形の者との許されざる恋。冷戦下におけるアメリカとソ連のスパイ合戦。高圧的かつ暴力的な上司による拷問と迫害。あらゆるところに意図的に使われる緑色。恋の喜びを知ったイライザが身に着け始める赤い色。大量の水、水滴、雨。音楽の存在感。身体的なつながりと、精神的なつながり。黒人差別、同性愛差別、障がい者差別、職業差別……。

極上のファンタジーであり、非の打ち所のないラブストーリーだった。

声を持たないイライザは、手話でコミュニケーションをとる。従って、全体的にセリフのボリュームがとても少ない。その代わり、クラシックなミュージカル映画の音楽や、とても美しい印象的なオリジナルの音楽が雄弁にドラマを演出していく。

また、『バンズ・ラビリンス』の雰囲気そのままの独特な色彩が、この大人のおとぎ話を情感たっぷりに紡いでいく。最初から最後まで、『シェイプ・オブ・ウォーター』の世界に溺れているような気がした。

この作品の愛は強烈だ。ものすごく純度が高く、激しい。

「その生物」が、悪役であるストリックランドの指を噛みちぎったのを知っていながら、イライザが「その生物」に会いに行ったシーンを観たとき、私は思った。彼女は「死んでもかまわない」と考えているのだなと。

ただ一度視線を交わしただけの相手。しかも、他人に危害を加えた人物。さらに、人間ですらない謎の生物。そんな相手に会いに行くなど、普通は考えられない。だって、殺されるかもしれないのに。

それでも、イライザは会いにいかずにはいられなかった。たとえ殺されてもいいから、会いたかった。そんなイライザの情熱の純度に圧倒された。序盤のこのシーンから、私は本作で描かれる愛の強さに魅せられっぱなしだった。イライザは迷わないし恐れない。文字通り「命よりも大切な愛」を見つけたから。

「声が出ない」というフィルターを通してしか人々が自分を見てくれないことの辛さ。「私を見て」「私の話を聞いて」イライザの心はそう叫んでいる。

対して、相手から言葉を奪い続けるストリックランド。妻との情事の際には妻の口を塞ぎ、言葉を発さないイライザに性的興味を抱く。相手の自分に対する言葉を奪うことでしか、他人を支配できない男。「パパ、聞いて!」とせがむ息子の姿も印象的だった。そんな彼に、イライザが一度だけハッキリと言葉を伝えようとするシーンは爽快だ。

思わずウッとなるシーンもいくつかあるし、個性が強すぎて観る人を選ぶ世界観かもしれない。しかし、少なくとも私は『シェイプ・オブ・ウォーター』で描かれた愛に魅了された。

人間は弱く、醜く、この世の中には差別や偏見など糞みたいなことが溢れている。それでも、愛はこんなにも強く美しく輝く。素晴らしく美しい映画をありがとう。


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