umisodachi

ナショナル・シアター・ライブ 2024 「ディア・イングランド」のumisodachiのレビュー・感想・評価

4.7


作:ジェームズ・グレアム 演出:ルパート・グールド 出演:ジョセフ・ファインズ 他

世界にサッカーを広めたイングランドは、その後、手痛い敗戦パターンを繰り返している。なぜイングランド代表は自分たちの試合で勝てないのか?
世界最低のペナルティ記録を持つガレス・サウスゲートは、チームと国を約束の地に戻すためには、心を開き、長年の痛手を直視する必要があることを知っていたーー。
ナショナル・シアターでの舞台をライブ撮影。
(公式サイトより)

現役イングランドのサッカーチームを題材にしているという驚きの演劇。私はサッカーの試合を観るのが好きではあるものの、イングランドには興味がないし選手にも詳しくないので全然わからなかったのだが、サッカーに詳しい人であれば次から次へと出てくる実在のキャラに心躍るだろう。そんな私でも政治家なんかはわかったけど、皆ものまねショーばりに似ていて面白かったから、全員の顔がわかればもっと楽しいんだろうなという想像はついた。(後ろに座っていたおじさんは結構笑っていた)

ツラい過去を抱えているサウスゲートが、なぜか勝てないイングランドチームの根っこにある問題に向き合おうとする物語。女性の心理学者を招聘して強固なトクシック・マスキュリニティを解体していく様はとても丁寧で柔らかく、ものまねを交えながらの周辺部のスピーディな展開とのバランスが絶妙。また、安易にベクトルを決めつけない幅を持たせたストーリー展開も見事で、視点を分散させてやがてはサウスゲート自身にも突き刺さっていくテーマの深さが深い余韻を残す。

「3章からなる物語を作っていく」と、最初にサウスゲートはメンバーに語ったが、本当の3章目は現実世界での未来に向かっていくという開かれた展開もリアルタイムな演劇ならではで、今までに感じたことがない爽快感があった。

もちろんトクシック・マスキュリニティの解体だけがテーマなわけではない。人種差別や政治についても触れていて、ああいったスポーツというもののありようについても問題を投げかけていく。グルグル回る盆と、ユニフォームが飾られた棚、そして照明のみで構築されていく素晴らしいビジュアル演出にも感心した。超カッコいいじゃん。

それにしても、これって本人たちはどれくらい観劇したんだろう?
umisodachi

umisodachi