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パスト ライブス/再会のumisodachiのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.8


オスカー候補にもなったラブストーリー。

12歳までソウルで共に育ったノラとヘソン。しかし、ノラは移民としてカナダに渡ってしまう。12年後にインターネットを介して再びつながった2人だったが再会することはなく、さらに12年の時が流れて……。

ものすごーくエモーショナルな作品。ラブストーリーなのは間違いないのだが、もっと大きな視点で「人生」を描いていた。

作家になるという夢を抱く行動的なノラと、堅実な生き方を選ぼうとするヘソン。12歳のとき強烈に惹かれ合ったふたりにとって、互いは常に大切な存在であり続けたが、物理的に離れていた24年間が決定的にふたりの間に存在しているわけで。おそらくこの映画は年齢を重ねれば重ねるほど響くんじゃないかと思う。

本作には「イニョン」という考え方が出てくる。端的に言うと「運命」という意味だけれど、いわゆる運命のニュアンスとはちょっと違う。現世で少しすれ違っただけの関係にも「縁」を見出し、何度も繰り返されてきた前世から繋がっているのだという感覚なのだそう(たぶん)。なんというか、本作は「運命の赤い糸」といったベタベタの運命論で結ばれるか結ばれないかを論じてはいないんだよね。いくつもの前世といくつもの来世の間にある現世で、どんな風に関わっていくのかを描いているというか。扱っている概念がもっと広くて、単純な恋愛にまとめることはできない。

私は、特にノラに強く感情移入してしまった。この映画を観ると誰でも自分語りをしたくなると思うので私もするが、私は自分でもかなり熱しやすい方だと思っている。恋愛感情に限らず何かに熱中すると、常に白昼夢を見ているような状態になって生活全体のバランスが崩れてしまう。私は自分の人生を自分でコントロールしたいと考えているため、その状態は望ましくない。だから、自分がそういう状態になっていると感じたらその対象から距離を取る、ということを繰り返してきた。逆に、そういうときにとことんまで熱中して失敗して激しく後悔して、ということを繰り返してきた人もいるだろう。

いずれにしても「何かに夢中になったことがある」「二度と取り戻せない過去がある」「あのときああしていればという思い出がある」人であれば、本作に自分自身を重ねずにはいられないはずで、40年くらい生きていれば誰にでもそういう経験というのはあるのではないだろうか。この映画が特別なのは、ある程度の年月を生きてきた人間であれば自分自身の人生を重ねずにはいられないところだ。映画が進めば進むほど自分の過去や「あったかもしれない人生」が蘇ってくるだろうし、最後の5分でブワッとそれが溢れ出すはず。

また、映像や音楽がとても美しい。考え抜かれた構図、完璧なライティング、素敵すぎる背景。その一分の隙もないオシャレさにはそれこそ白昼夢みたいな趣があって、なんだかフワフワした不思議な感覚を与えてくれるのだ。観ている自分の人生もオシャレになった感じがするというか。初めての映画体験だった。

追記だが、「イニョン」は日本語の「因縁」だよねという感想を見かけて膝を打った。そして、「見知らぬ者同士が道ですれ違い、袖が偶然軽く触れたら、それは2人の間にはきっと前世でなにかがあったから」というイニョンについてのノラの説明は、まんま「袖振り合うも他生の縁」じゃん!と気づきました(遅い)
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