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トレイン・ミッションのsanbonのレビュー・感想・評価

トレイン・ミッション(2018年製作の映画)
3.7
日本では絶対にあり得ない"前提条件"の上に成り立つ作品。

日々、通勤や通学で"電車"を交通手段として利用している方も多いかと思うが、今作は正にその通勤電車内で巻き起こる事件を題材にした作品となっている。

元警察官で現在は保険の営業マンとして働く「マイケル・マコーリー」は、定年退職間近に10年勤続した保険会社を突然リストラされてしまう。

息子が大学受験間近のタイミングで、家族にも打ち明けられず途方に暮れながらも、いつもの時間帯のいつもの電車に乗り込み帰路に着いていると、普段見かけない見知らぬ女性から、成功報酬10万ドルの"人探し"の依頼を半ば強引に受けさせられる事に。

標的は、仮称「プリン」という性別不詳の人物で、手掛かりは色や形は分からないが鞄を携えている事と、行き先は終着駅である「コールドスプリング」であり、普段はこの電車に乗り合わせていない人物だという。

そして、マイケルが選ばれた理由は、捜査力に長けた元警官で、リストラされ現在金に困っており、この時間帯のコールドスプリング行き列車の"常連客"であったからだった。

要するに、マイケルに白羽の矢が立った最大の理由は「乗客の顔を見分けられる」事が前提となっているという事だ。

こんな条件、とてもじゃないが日本じゃ到底考えられない。

というのも、アメリカでは近くの知らない人に話しかける事は"ナイス"な事とされており、逆に話しかけなかったりすると、人を無視する失礼な行為ととられてしまう"お国柄"である為、毎日のように顔を合わせる人とは"必然的"に顔馴染みになりやすいのが"普通"だからである。

日本でも、同じ車両に毎日乗っていると確かに見かける顔も何人かは固定される。

が、日本ではそこまでだ。

だからといって、その人に話しかけたり挨拶を交わしたりなど絶対にあり得ないし、今作のマイケルのように車両を行ったり来たりなんかしていたら、完璧な不審者として知らぬ間にSNSにでも晒されてしまうのがオチだろう。

基本的に、日本では"静か"な事がマナーであるから、乗ってる間は"無"に徹するのが"原則"なのである。

しかし、外国人からしたらそのマナーは"異常"に見えるらしく、例えば車内で赤ちゃんがぐずり出したら近くの人があやしてくれたり、周りの人達が気を遣わせない為に笑顔で接してくれるのが海の向こうでは"常識"であるのに対し、日本では同じ状況になっても全員"無関心"を決め込む。

この光景を外国人はとても異様に感じるのだという。

ちょっと飛躍的かもしれないが、これって"少子化問題"にも通じていると言える。

何故なら、日本人は絶好の"出会いの場"をそうやって無関心を装って"潰してしまっている"からだ。

人の心理には「ザイアンスの法則」という"単純接触効果"が働きやすく、人間関係においては「熟知性の原則」と呼ばれ、会えば会うたびに、知れば知るほどに好意を持つといった"心理効果"を発揮する事が確認されている。

その為、興味がなかったりあまり好きではなかったりするものや人物でも、頻繁に目に触れる機会があった場合、その対象への警戒心や恐怖心が薄れ、良い印象を持つようになるといわれており「週に一度丸一日」接するよりも「数分だけでも毎日」接触した方がその効果は大きく、好意も抱きやすいとされているのだ。

なので、電車の通勤時間は正にこの効果を得やすい絶好の場であり恋に陥りやすい筈なのだから、仮にアメリカのように"風習的"に話しかけやすい環境であったならば、ここから恋愛に発展する可能性も限りなく高まるという事になるのだが、それを日本人は"鎖国的"な精神が邪魔をして、まず環境自体が叶わぬ恋へと仕向けてしまっているのが現状なのだ。

これは実に嘆かわしい事である。

何故なら、話しかける機会を失った人がとれる行動は一つしかなく、突然連絡先を渡す事以外なくなってしまうからだ。

しかし、この行為はとてもハイリスクと言わざるを得ず、0か100の結果しか生まない挙句、下手をしたら告白失敗どころか、もしその相手が心ない人だった場合、個人情報の悪用の危険性まで孕んでしまうからだ。

受け取った側も、人となりも分からない完全なる赤の他人からの突発的な好意であるから、そもそもがマイナスイメージからの接触になりやすく、そうなると判断基準も見た目だけとなってしまう分"成功確率"もほぼ0に近く、相手の好みで無かった場合は、どうしていいか困惑させてしまうだけの迷惑行為に成り下がるし、しかももしむげにしようものなら最悪の場合、ストーカー行為を受ける可能性まで帯びているのだ。

毎日見かけて毎日同じ時間を共有しているにも関わらず、なにも出来ずにただ悶々と鬱屈としているだけしかないという状況は、犯罪リスクの面から見てもかなり"不健全"であるとしか言いようがないし、博打の様な行為はそれだけ強い想いがあってこそなので、やっとの思いで行動に移せてもそれが成就しない限りは、結局犯罪に転じてしまう可能性も高まる訳で、どっち道双方にとって不利益しかもたらさない結果となってしまう。

日本とは、他所から見たらそんな"陰湿さ"も併せ持つ国民性が窺える国とも言えるのだ。

…と、かなり脱線してしまったが、今作はそんな日本にはない"フランクさ"があって初めて成立する作品である為、日本映画ではまずお目にかかる事は出来ない切り口のストーリーとなっており、犯行手口の"不確実さ"はかなり目に余るが、謎解きのスリルもそこそこ楽しめる出来ではあったので、サスペンスアクションとしては上質だと言えよう。

なにも考えずに楽しめて、毎日の通勤通学電車の中に憧れの人がいる方が観たら、アメリカのフランクさがちょっとだけ羨ましくなる事間違いなしの作品であった。
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