Masato

ミスター・ガラスのMasatoのレビュー・感想・評価

ミスター・ガラス(2019年製作の映画)
3.2

シャマラン・シネマティック・ユニバース最新作

前作「スプリット」での驚愕のラスト。「アンブレイカブル」と「スプリット」が繋がっていた新事実からの本作。一体どうなるんだ!?という全くもって想像できない状況の中の鑑賞。

「アンブレイカブル」のガラス側のテーマである「スーパーヒーローは実在する」というテーマを本作は129分たっぷり描く。

私が何故シャマランが好きなのかというと、大それた物語の中にあるハートフル(人間味のある)な優しいテーマ、主人公(或いは悪役)たちの見方がどんでん返しによって変容していく楽しさと感動がたまらなく好きだからだ。スプリットにおいて、サイコパスにしか見えないケヴィンが後に主人公ケイシーと似た境遇であったことを知り、一気に見方が変わって泣かせにきたのは最高だった。また、ケイシーも一連の境遇を経てトラウマを乗り越えようとする展開も好きだ(これはサインやアンブレイカブルとも共通する)。

ただ、否が多いシャマラン監督作品が結構好きな私でも、今回は正直微妙だった。

スプリットでダンが出た時は興奮して、本作を待ち望んでいたものの、実際見てみるとシャマランの作風と続編作品は合わないなと感じた。それは、主人公(悪役)の成り立ちを既に知っているから、見方の変化が起きない。ただのアフターストーリーでしかない。
シャマラン作品は、何もかもが新しいものであるからこそ際立つのだと実感した。あくまでも私の見方が本作と合わなかっただけで、他の人には傑作に見えるかもしれない。

それを抜きにしても、他に不満点はある。シャマランが撮りたくて撮りたくて仕方がないという気持ちはよく分かるのだが、その気持ちが強すぎて、見ている人を完全に置いてけぼりにしている。終盤なんかは言動が所々意味不明だし、何が何だかわからない部分も多い(自分の情報不足かもしれない)。あと、いつものことだが、結構スローテンポ。

良い点もある。「アンブレイカブル」と繋がるところは驚いた。どんでん返しもいつもながら見事だし、18年越しの集大成という感じが出ていて、それはそれで面白い。所々に挟まるスリラーなシーンが緊迫感ありまくり。ケヴィンのキャラの凄味。出たがりなシャマランのカメオ出演。

テーマもじっくりと描かれていて考える余地があって良い。本作の前準備としてアンブレイカブル関連のサイトを漁ってたら、
「アンブレイカブルは、スーパー!やダークナイトで描かれる"ヒーローと現実社会"を描いた最初の映画であり、もっと公開が遅ければ評価されていたはず」
とあって、ナルホドと思った。
ヒーロー映画らしからぬ地味な作品ではあったが、超能力を自己の内在する才能のメタファーにしつつ、スーパーヒーローと真面目に向き合った作品である。

本作もその延長線上として、3人をスーパーヒーローだと勘違いしてる妄想人間だと言い張る精神科医と3人の超人の戦いになるのだが、わたしにはマイノリティとマジョリティの構図に見えた。過去作品を見てるこちらからしたら、どう見ても普通の人間ではないのは明らかで、それでも何かと脳の病気だの何だのと理屈を並べているのが、まだ理解に乏しかった一昔前のLGBT問題に見えた。自己に元々内在するものであって、病気などではないという観点から見れば、LGBTも本作の超能力も共通している。ゲイのブライアンシンガーが作ったX-MENも似たようなテーマ。そこで本作は、一般的に普通ではなくても、誰かに何と言われようと自分を信じることの大切さをガラスを通して語りかけている。みんながみんな同じじゃないのと同様なだけであって、病気ではないんだと。

話は変わって、キャストと撮影監督が素晴らしい。
スプリットと同じ撮影監督でイットフォローズの撮影監督でもある人が本作も担当。遊び心満載な様々な切り口の撮り方を息を吐くようにやってくれて楽しませてもらった。お得意のズームイン・アウトは最高。
マザファカおじさん、ハゲ・ウィリスは安定していて良いが、マカヴォイの多重人格の演技が前作よりも際立っていて半端じゃない。コロコロ人格変わるから見ていて笑っちゃう。

テーマや演出等の良くできているところもあったが、自分が楽しみにしていたシャマラン映画ではなくてガッカリした。勝手で申し訳ないが、この評価で。変な方向にシャマラン愛が強すぎてガッカリしてしまったの図。
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