このレビューはネタバレを含みます
インド映画でしか見られない華やかなインド様式美の粋が集められ、絢爛たるトリウッドの美男美女が怒濤の大迫力で迫って来る豪勢・豪快かつ豊穣な神話スペクタクル叙事詩……などという陳腐な言葉では表現できないのがもどかしい。とにかく、映画を見る快楽がこれでもか!と詰まってて、波状攻撃のように快感ポイントがやって来る。
アクション部分などの突飛かつ斬新な発想はほとんどマンガだが、それを超ゴージャスな俳優陣と巨額の製作費を以て作っているのでマンガ的になるはずもなく、ただただカッコよく麗しい。古代の王族の話に相応しく、貧相なところやしみったれたところは微塵もない。
そして、次から次へと見たことのない贅を尽くしたスペクタクル映像が現れてきて、飽きるヒマがない。とんでもない人間の頭数は言うまでもなく、華麗に正装した象がこんなに数多く登場する映画が他にあるのだろうか?CGだとしても圧巻。
いつもはいささか苦手な戦いのシーンだが、苦手どころか、こんなに唖然とする楽しいファイトシーン見た覚えがない。劇画チックなためか、残酷さや血腥さも感じない。トンデモ創意工夫に富んだ戦いは断然面白く、角に火のついた牛に乗って走るわ、槍と槍は正面衝突するわ、体は地面にめり込むわ、木は根こそぎ引っこ抜くわで、めちゃめちゃカッコいい上に大受け。兵たちが団子虫になりながら飛んでいくのはさすがに無理過ぎ!(笑)と思ったけれども、独創的でオモシロイのでよし!引力も重力も神話の世界では取るに足らない。
俳優らの顔や体つきも劇画さながらの濃さだが、眉間に皺を寄せず顔つきに余計な深刻さやうっとーしさがないのがインド映画らしくて実によい。
父バーフバリ最高!おおらかで慈愛と幸福感に満ちた笑みを湛えていて、下野しても風格ある王以外の何者にも見えないのがたいへん素晴らしい。双弓シーンの甘美さ、騎象するバーフバリの崇高かつ優雅な美しさはえも言われず、絵になるシーンは枚挙にいとまがない。腕に鎖を巻いたラストファイトシーンの強さ、カッコよさ、セクシーなんてもう笑うしかない。
デーヴァセーナ妃の行く手を阻む水の中に巨大な彫像の頭が吹っ飛んできて橋を作り、妃が四半世紀に渡って集めた小枝が無駄になることなく、最後その上にブン投げられて生きながら火にくべられるバラーラデーヴァ、結願叶う!(ガッツポーズ!) そして、あの滝を流れ落ちる金色の彫像の首。いやもう、これぞインド独自の世界観、ヒンドゥーの聖典マハーバーラタを下敷きにしているだけのことはある。
バラーラデーヴァざまあ。だが気持ちは全くわからんでもない。あんな魅力的なヤツと比べられなければならない立場にはいささか同情する。
しかし、パート1のヒロイン、アヴァンティカはどこ行った?
さて。
見ている間は深く考えなかったが、これ、非常にわかりやすいインドの社会批判になっているようだ。相次ぐ鬼畜な性犯罪とか、嫁と称される女性の人権問題とか。デーヴァセーナ様、シヴァガミにそこまで言う?とひやひやしたけれど、インドではあれくらいはっきり言って社会にわからせないとダメということではなかろうか。
明らかに明確な意図を持って挿入されているセクハラ野郎の指切り及び瞬殺の場面も同様だ。殺意が成就して実に快感。デーヴァセーナ様のドヤ顔を見よ!どれだけのインド女性があの場面で溜飲を下げたことだろう。
インドで最もメジャーなボリウッド映画ではなく、南インド・トリウッド映画でありながら、ぶっちぎりインド映画史上最大のヒット作になった本作、社会に強いメッセージを発し、インド社会を変えていく力になるのは間違いないのでは。全編名場面といってもいいこの映画の中で、セクハラ首切りがベストシーンの1つとしてYouTube上位に上がっているのもわかる。
ダンスシーンは少ないけれど、音楽がブラスと合唱のド迫力で盛り上げている。いつもながらインド特有のリズムに腰があって躍動感に満ちた音楽が心地よい。稲作文化圏の音楽には泥の匂いのする大太鼓のドンドンという音が欠かせないな。
また衣裳の美しいこと!(象さんの衣裳も) サリーが美しいのは知っていたが、男性の凝った柄の衣裳が素晴らしくて、あれを着てアクセサリーをジャラジャラつけるとインド男性は洋服の100倍増しくらい魅力的に見える。比較的簡素な衣裳ももれなくアクセサリーがついてくるので、決して地味にならないのがよい。
バーフとバラーラ限定で、ミケランジェロの上半身に幅広金糸の布たすき掛け+アクセサリーというスタイルがまたセクシーかつ優雅…。
名演カッタッパ、空飛ぶ夢のスワン・ボート特筆。
後者はインド映画に付き物の歌あり踊りありの場面だが、この帆船のシーンほどファンタジックで美しい映像は私がこれまで見た中にはなかった気がする。ウットリ。主役はあまり踊らないけど。
https://youtu.be/TXSoTzjliBA
あらためてこの動画を見ると、あまり踊らないまでも結構細かく音楽と演技・映像をシンクロさせているのがわかる。一瞬のタイタニック・ポーズがカワイイ。オマージュというより、愛し合う二人が舟に乗ったらあのポーズしないとね、というちょっとしたお遊びという感じ。国王夫妻オチャメ。
そして、インドを舞台にしたディズニーアニメーションの実写化か、というくらい構図に無駄がなくバッチリ絵が決まっている。他のシーンにもいわゆるインド的混沌や無秩序(そこがインドらしい魅力でもある)がほとんど顔を覗かせず、膨大な物量が詰め込まれているのにも関わらず全編に渡ってスッキリ整然とした印象。
多分スタジオ撮影がほとんどで、セッティングされ、隅々まで管理された映像だからかな?そういう意味でも、バーフバリ、マンガorアニメ実写化的。なんでも監督は、子供の頃からインド神話を題材にしたコミックに夢中だったそうで、神話がサブカルに自然に溶け込んでいる環境のようだ。
ネットにUPされているヒンディー語吹き替え版(違法?)にはちゃんと長~いエンドクレジットがあって、お話を聞き終えた後のお父さんと子供の会話、みたいな感じのが入っていた(当然ヒンディー語はわからず。)なんで日本公開版ではカットされてるんだろ?テルグ語の文字で書かれているのかな?
トリウッド映画はハイデラバードで制作されるテルグー語の映画とのこと。ボリウッドはムンバイで制作されるヒンズー語の映画で最もメジャー、コリウッドはチェンナイで制作されるタミール語の映画、この3つがインドの3大映画界みたい。やっぱ奥が深いわ、インド…。