インドのイギリスからの独立時の混乱を描いた歴史秘話。
インド・パキスタンの分離独立時の状況は、ガンジーの半生記「ガンジー」やインドの陸上選手を描いた「ミルカ」でも描かれていて、悲劇的な状況自体はある程度理解していました。
本作では、宗教対立を軸にしてインドとパキスタンとに分離独立するに至った歴史的な背景が、マウントバッテン卿を中心に政治的な視点と混乱の渦に巻き込まれる民衆の視点の両面から描かれます。
1947年。
イギリスは、200年以上に渡ったインド統治に終止符を打ち、インドに主権譲渡しようとしていた。
スムーズな主権譲渡の任を受けて最後の総督となったのが、ディッキーことマウントバッテン卿(ヒュー・ボネビル)。
第二次大戦後、チャーチルに代わって英国政権を引き継いだのは、労働党政権のアトリー内閣。
当時のインドは、長年のイギリスのインド分割統治の弊害が噴出していた。宗教・カーストで国民が反目しあうように仕向けた統治政策のため、国内では暴動・虐殺事件が頻発するようになり、イギリス統治自体が限界に来ていた。
(以下、ネタバレ)
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インドの独立方針については、統一インドと分離独立の二つの考えがあった。
・統一インド派・・・ヒンドゥー教徒・シク教徒を中心とし、ガンディー(ニーラジ・カビ)、ネルー(タンヴィール・ガニー)らをリーダーとする国民会議派が主体。
・分離独立派・・・ムスリムを中心とし、ジンナー(デンジル・スミス)をリーダーとするムスリム連盟が主体。
双方は独立方針について議論していましたが、分離独立を主張するジンナーは、その主張をなかなか曲げようとしません。
英国側もインド主流派も時間をかけて一体独立を模索しようとしていたのですが、暴動が頻発して犠牲者が増えるばかりの状況が選択肢を狭めていきます。
そして、マウントバッテン卿もとうとう分離独立の方向で動き出し、英国政府の了解も取り付けます。
マウントバッテン卿と家族は、本当にインドのことを愛して、インドのために最善の選択をしたいと考えていることが伝わってきます。ヒュー・ボネビルいいです。
しかし、彼には知らされていない秘密があった...。
隣人として暮らしてきた国民同士が、反目して国を分かつことの弊害の大きさ。
分離独立の際に、どれほどの悲劇が起こるのか?ということに対する想像力の不足。
最後まで分離独立に否定的だったガンディーは想像できていたのかも知れないですが。
インド所有の財産は、所定の比率に応じて全てインドとパキスタンに振り分けられる。
総督府の財産の振り分け作業の映像がありますが、細かいキッチン用品や食器まで分配していく様は、その後の悲劇を予感させるものでした。
特に、ヒンドゥー教徒、シク教徒とムスリムの混在率が高い地域は、国境線が運命を分ける。パンジャブ州も、分割で無理矢理引き裂かれた地域。
独立後に、民衆から分離の悲劇を糾弾されたネルーが謝罪しているシーンは悲しい。
こういった史実に、民衆側のお話を巧みに織り込んでエンタメ作品としたのが本作。
分離独立の渦に巻き込まれる男女の恋がクローズアップされます。
総督府で働く、ムスリムの女性アーリア(フマー・クレイシー)とヒンドゥー教の男性ジート・クマール(マニーシュ・ダヤール)。
アーリアは、家族とともにパキスタン側に移動しようとしますが、、、
歴史的事実と恋物語をバランスよく織り混ぜたエンタメ作品として、見応えのある作品でした。
P.S.)ファミリーヒストリー
インド・パキスタンの分離独立により、史上最大規模の移動が発生。
1400万人が移動、100万人が犠牲になる。
想像を絶する大移動と犠牲者の数。
エンドロールで女性が写った1枚の写真が紹介される。
その女性は、分離独立時、パキスタンからインドに移動したという。
その女性の孫が、本作の監督。
チラシにも書かれていますが、監督自身のファミリー・ヒストリー的な位置付けの作品。