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ビューティフル・デイのsomaddesignのレビュー・感想・評価

ビューティフル・デイ(2017年製作の映画)
5.0
描かれてない部分の暗く巨大な闇がおっかない
ホアキン・フェニックスの絶望しきった佇まいが凄かった


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NY。元軍人のジョーは年老いた母の面倒を見ながら、行方不明の少女たちを捜し出す仕事で生計を立てていた。そんな彼のもとに、上院議員の娘ニーナを捜してほしいとの依頼が舞い込む。しかし見つけ出したニーナは、怯える様子もなく人形のように感情を失っていた。救出したニーナを引き渡すべく、待ち合わせ場所のモーテルで依頼主を待っていたが、TVからは来るはずの議員が自殺したニュースが流れてくる。

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抑制の効いた演出に行間の広い描写が多くて、観客の想像力を信じた作りだと思いました。
とにかく直接的な描写や説明的なセリフを極力排してるせいで、イマイチ理解しきれない部分があったので、慌てて原作本を購入。あっという間に読了。短編で良かった。


理解が深まったのはいいけれど、ますます主人公ジョーの自己否定の深さ/無力感のやるせなさが悲しくて悲しくて……


幼い頃の家庭内暴力から自分の心を必死に守るべく身につけた自己愛や自己肯定感が、ある事件をキッカケに強烈な自己嫌悪に反転してしまったような人。自分自身は勿論、生きた痕跡すら残したくない(自分が生きた影響で世界が悪くなると思ってる)。日々毎時自殺ばかり考えてて、実際何度もチャレンジしてたり。
それでも死なないでいるのは、幼い頃守れなかった母親への贖罪への気持ちだったり、せめて順番を守って、残される母親へ面倒をかけちゃいけないという気持ちだけ。毎日生きることになんの価値も見出せず、ただただ自分の無力さと空虚さで自分を苛まされるばかり。
なんちゅー、鬱々として暗い主人公であることか。なのになんでこんなに主人公に共感できてしまうのか。悲しすぎるぞジョー!(;´༎ຶД༎ຶ`)
思えば恥ずかしながら何度か自分もチャレンジした事のある身。日々自分に出来る事は食べ物を💩に変えることくらいだと思ってる自分には、ビシビシ刺さる。



ラストシーンがとても美しく、胸糞悪い陰謀渦巻く世界に刺した光明のようで素敵。
だけど原作で描かれる陰謀の根深さを考えると、ほんの刹那的な美しさにすぎなくて、あの二人はまたすぐ醜悪な闇に取り込まれるのが決定的。それがまた暗く怖いような……だからこそあの一瞬が美しくかけがいの無いものであったような……。



レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドによる劇伴も印象的。リズムマシーンの揺らぎのない規則的なリズムが迫り来る不穏な空気の暗示でもあり、粛々とルーティーンをこなす主人公のイメージと重なって聞こえた。



クライムスリラーなジャンル映画でありながら、一人の空虚を抱えた主人公が自縄自縛を越えて生きる価値を見出してくドラマに昇華してるのはホアキン・フェニックスの狂気じみた熱演のおかげかも。カンヌ国際映画祭男優賞・脚本賞W受賞も納得。
観る人を選びそうだけど、自分には特別な1本になった。


50本目
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