つかれぐま

女王陛下のお気に入りのつかれぐまのレビュー・感想・評価

女王陛下のお気に入り(2018年製作の映画)
4.0
3/4_TOHO新宿#8

美女の醜い争いは蜜の味

こんなにエンタメ要素たっぷりとは思わなかった。エモくて分かりやすいが、キューブリック風味のブラックコメディ。

「悪趣味」にギリギリなりそうでならない絶妙さ、それを覗き見るようなスリルが、ストーリー以上に楽しかった。実は(多くの男性同志同様に)このジャンル<英国宮廷もの>には食指動かず、当初はパスの予定だったが、「ムービーウォッチメン」の課題作になってしまい慌てて観に行った次第。それが意外にも面白かったのだから、本当に得した気分だ。エンドロールにあえて現代音楽(エルトンジョン)を持ってきたのは「この作品は現代にも通底する物語だ」という監督の意思表示かな。

サラvsアビゲイルの死闘がエモくて楽しく2時間があっという間だった。知性で長けていそうなサラが本を雑に扱っていたのに対し、逆にアビゲイルはラストシーンまでよく本を読んでいた(当時は女性が本を読むのは珍しかったはず)。二人の駆け引きの分岐点で、重要道具として本が使われていたのが象徴的だった。

アビゲイルの逞しさ、戦略的で合理的な行動、宮中で独り異質な(エマストーンの)アメリカ人顔、Fワードの連発。彼女のキャラクターには、アメリカという国家のイメージが投影されてるなと思った。監督はギリシャ人、歴史があり中道的イメージの国だが、そういう国から見たアメリカは、まさにこのアビゲイルなのかもしれない。

解釈の分かれそうなラストシーンだが、
史実がどうだったかは別として、
英国人が「女王が結局は勝者。アビゲイルは所詮ウサギ」と、
アメリカ人が「アビゲイルはこのままでは終わらない、したたかに立ち上がるさ」なんて解釈していたら面白いな。
そういう両方の解釈が成り立つアンとアビゲイルの表情だったと思うし、これをギリシャ人の監督が作ったという事実がまた面白い。