シュローダー

ザ・スクエア 思いやりの聖域のシュローダーのレビュー・感想・評価

4.5
ミヒャエルハネケの意志を継ぐかのごとく、人間の醜悪な姿をこれ以上なくストレスフルに描き出す。10本に1本くらいはこういう意地悪な映画を摂取すると非常に健康的な人生を過ごせると思う。美術館のキュレーターであるクリスティアンは、正方形の空間の中では誰しもが思いやりと平等を持つという現代アート「ザ・スクエア」の準備に追われる中、財布と携帯を盗まれてしまう。それを取り返すためにアパート全ての部屋に脅迫状を送ったことから、彼の身には不幸が降りかかる…
この映画の特徴は徹底した"俯瞰"の視点である。クリスティアンの辿る不条理な運命を、彼に親しみを込めて寄り添う事は全くせずに、半ば嘲笑の視点を持って淡々と見せていく。その中で、思わず唸ってしまう様な劇的な演出をもしっかりと入れてくる。この辺りの手腕はヨルゴスランディモスを非常に連想するというか、現代ヨーロッパ映画のトレンドなのかもしれない。基本的に人と人が会話するシーンをこれ以上なくイライラする様に撮っているこの映画を象徴するのは、使用済みコンドームを誰が処理するかでモメる超どうでも良い会話でわざわざ長めの尺を取る場面や、その後の美術館での会話シーン。不愉快さと居心地の悪さという点で言えば最悪で最高なのはやはりサルのパフォーマンスを行うシーンだろう。あの場面の最悪さは筆舌に尽くしがたいし、余りにも最低なので一周回って笑ってしまう。ラスト、あの少年を巡るエピソードの帰結も全く救いがない。人は知らず知らずの内に他人を傷つけているのだという物語は、「オールドボーイ」を連想したし、人種、移民への偏見を思わず露呈させてしまう"普通の人"の物語を、世間からは福祉国家で住みたいと思われているであろうスウェーデンという国でやってのけるという最高の皮肉には、心が抉られると同時に清々しくもある。この感情がドライブしていく感覚こそ、優れた映画でのみ味わえるものである。その点で、カンヌでパルムドールを取ったのも実にらしい映画であった。