亘

ザ・スクエア 思いやりの聖域の亘のレビュー・感想・評価

3.9
【偽善】
美術館のキュレーター、クリスティアンが人々の「思いやり」を試す現代アート"The Square"を発表する。一方で彼はスマートフォンを盗まれ、犯人がいると踏んだマンション全戸にビラを撒く。そのビラから彼はトラブルに巻き込まれる。

人々の思いやりや偽善、寛容を皮肉ったブラックコメディ。この痛烈な皮肉と人々のうわべの寛容を疑う姿勢は、リベラルな国スウェーデンだからこそといえるだろう。「寛容」を謳う主人公が実は身近な人物に寛容でないのも皮肉だし、現代アートや富裕層を皮肉った今作がアートとしてパルムドールで評価されるのも皮肉。

今作はストーリーに従い複数の”寛容”を疑うシーンを並べ替えた構成になっているように思う。大筋に沿わないシーンでいえば、
・冒頭、人々が難民募金はするくせに、助けを求める悲鳴を無視するシーン:結局遠くの難民を助ける方が自分の手は汚さないしトラブルにならずに善人ぶれる。
・美術館のトークセッションで卑猥な言葉を叫び続ける男と出席者:
おそらく知的障碍を抱えた人に対して、寛容に優しく接してるつもりだが少し苛立ちを感じている。
・晩さん会でモンキーマンが晩さん会を荒らし、最後は女性を犯しそうになるが人々は無視する:人々は最初”アート”としてとらえて楽しんでいたが、自分の身に危険が及ぶと考えると干渉をやめる

人々は”寛容”と説きながらも結局はトラブルに巻き込まれずに虚栄心だけ満たしたいのだ。

今作の主人公クリスティアンも同様である。美術作品”The Square"では人々は平等であることを説くまさに”リベラルな人”。しかし実際には冒頭の街中では助けを求める声を無視。そして移民の少年から謝罪を求められた時には相手を子ども扱いして傲慢に応じない。しかも美術館職員の女性と関係を持った時はその事実を隠そうとする。そして彼はマンションでのビラ配りも部下に任せようとする。まさに言行不一致というか結局はプライドを保ちたいだけなのだ。とくにコンドームの処理のくだりはくだらないが彼のプライドの真骨頂といえる。

そんなプライドを保ちたかった彼にとって最大の危機は、アート作品のプロモーションビデオ。”The Square"のプロモーションのために部下たちが作った動画は金髪の物乞い少女が爆破される過激なもの。これは一種のアートであり大きな反響を呼んだのだが、その内容のためにバッシングに遭う。ここでもクリスティアンはなんとか弁明して逃げきろうとする。これはクリスティアンの過失ではないかもしれないが、クリスティアンの事なかれ主義が出てしまったシーンだろう。倫理的にはアウトなのだろう。

しかし終盤クリスティアンは大きな一歩を踏み出す。移民の少年に謝罪に向かうのだ。少年は不在でクリスティアンにはある意味大きな禍根を残した。しかし彼自身にとっては大きな変化といえるだろう。

最後に:
虚栄心についてフランスの哲学者パスカルは、人間の消し去りがたい性質でありながらも、人間を卓越したものにしているものだと言っている。
つまり虚栄心を求めるのはしょうがないが、人から賞賛を得たいという不純な動機=虚栄心こそ人間社会を発展させた要因というわけだ。
もしかしたら偽善もある程度は必要なのかもしれない。

印象に残ったシーン:携帯電話を置いていくアート作品のシーン。クリスティアンがマンションに向かうシーン。
亘