たく

名もなき野良犬の輪舞のたくのレビュー・感想・評価

名もなき野良犬の輪舞(2016年製作の映画)
3.7
刑務所で友情を交わした男二人の皮肉な運命を描く韓国ノワールで、ソル・ギョングの善人とも悪人ともつかない演技が、ちょっと悪い役を演じる時のリリー・フランキーみたいで絶妙にハマってた。その彼が、母を思う純朴な若き青年と対比されるというキャラ設定も上手い。イム・シワンは「非常宣言」でサイコパスな犯人役を演じてて、同作は短時間の出演だったけど強烈な印象だったね。本作は原題の” The Merciless”(無慈悲)に象徴されるとおり、人を信じる気持ちを利用される非情な世界を描いてて、鑑賞後の後味は悪かった。すれ違う二人の男は、ピョン・ソンヒョン監督が本作の後に撮った「キングメーカー 大統領を作った男」でも描かれてたね。

闇組織でのし上がる野望を持ってる麻薬密売人のジェホが、刑務所で服役中に母親を交通事故で失って悲嘆にくれるヒョンスとの友情を深め、出所後に自身の闇組織に入れる約束をする。ジェホが刑務所で地位を築いていることを、神に見立ててダ・ヴィンチ「最後の晩餐」の構図で見せるのは上手い演出。ここから親子ほど年の離れた二人の異様に仲の良い姿を見せられてほんわかするんだけど、これが後半で強いパンチとして効いてくる。ジェホが最初の方で言う「人を信じるな、状況を信じろ」というセリフに対し、ヒョンスが「アニキのことを信じる」って返すところに二人の住む世界の違いが対比される。

時間軸が行ったり来たりする中で、ヒョンスが潜入捜査官だったことが分かる意外な展開。このジャンルの作品は多数あるけど、ヒョンスが潜入捜査官であることを既にジェホが知ってて、ヒョンスの方も自分からジェホに身分を明かしちゃうのが斬新。おそらくヒョンスの告白がきっかけとなり、最初は彼を利用するだけだったはずのジェホの心に情が湧いたんだろうね。後半のヒョンスの母親の事故死の真相が分かるあたりから観てるのがキツく、ヒョンスが最後に向かうのが闇の世界か光の世界か、観てる方に考えさせるような幕切れに苦い余韻が残る。おそらくこのラストは、警察組織も闇組織も「無慈悲」という点では等価だという、人間の業みたいなことを象徴してるんだろうね。
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