こたつむり

ドグラ・マグラのこたつむりのレビュー・感想・評価

ドグラ・マグラ(1988年製作の映画)
4.0
♪ 真実なんてものは
  僕の中には何もなかった
  生きる意味さえ知らない

探偵小説界における三大奇書。
それは『黒死館殺人事件』と『虚無への供物』。
そして本作の原作となった『ドグラ・マグラ』。勿論、奇書と呼ばれるだけあって複雑怪奇、人を惑わせるような作品ばかり。読み進めるだけでも大変です。

だから、それが映画になっても複雑怪奇。
…と思ったら、そうではないんですね。
出来る限り、枝葉を切り落とし、分かりやすく噛み砕いてあるのです。それでいて、正常と異常の境界線に立つ不安定さはバッチリ描写。何気なく傑作なんです。

それに本作は源流。
胎児の見る夢…だとか、脳髄の内と外の入れ子構造…だとか、腐乱していく死体を記した巻物…だとか、現代のオカルト系に影響を与えたことは確実。

ちなみに「モヨコ」の元ネタも本作なんですね。
某映画監督の奥さんのペンネームや、大槻ケンヂさんの昔の芸名とかは、本作のヒロインの名前から取られたのでしょう。劇中では影が薄いですが、インパクトは抜群ですものね。

それだけ後年に影響を及ぼしたんです。
なので、そんな原作を映画化する…なんて、ちょっと正気では考えられない判断だと思うんですが、それを見事に創りきったのは流石と言えましょう。

しかも、チープなのに陳腐じゃないんです。
ホルマリン漬けの胎児とか出てきますが、どこからどう見てもゴム人形。でも、それが逆に薄気味悪いんです。現実と妄想の境界線を侵しているような…そんな気分になるからでしょうか。

また、配役も神懸っていますよね。
正木博士を演じた桂枝雀さんの本業は落語家ですが、それを感じさせない“狂気”が迸る怪演でググっと惹き込んできます。それに相対する松田洋治さんも良い感じ。負と負を掛け合わせたら正になるんだ、と再認識しました。

まあ、そんなわけで。
灰色の空と灰色の大地に挟まれた極彩色の海で足掻く狂気を描いた作品。彼岸に憧れる向きならば必修科目。未見ならば直ぐに臨むことをオススメします。
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