ぬーたん

終わった人のぬーたんのレビュー・感想・評価

終わった人(2018年製作の映画)
3.5
主人公は定年退職してすっかり抜け殻。テレビを見てボーっとしてる。
しかし!彼は凄いのだ。東大卒・大企業入社・表彰されたほどの優秀な成績・重役コースから外れたものの子会社の重役で定年・資産は数千万・両方の母親は健在で家族も元気・娘は嫁いで近くに住み可愛い孫もいる・帰る故郷がある・出身は岩手で地元県立から東大とは神童と呼ばれただろうよ地元の星じゃ・冴えないが心優しき旧友もいる。
という恵まれた境遇で、定年を迎えた。何もすることがない、というだけで『終わった人』と言うなら、世の中に終わった人がどれだけ沢山いるのだろう?
こんなエリートサラリーマンは上位数%で、殆どのサラリーマンは中小企業で、わずかな退職金をローンの残債に充て、古くなった水回りをリフォームしたりして(数社から見積りを取り、一番安いトコにしよっと)少しばかり残ったお金で、夫婦でハネムーン以来の海外旅行、しかも近場の台湾辺りか、せいぜい頑張ってハワイやシンガポールに行き、もしかするとビジネスクラスで行くか!なーんて旦那が見栄張って言い、奥様はこれから大変になるんよ贅沢できないわよ、アンタと現実的。でやっぱエコノミー決定。
定年しても年金はまだ満額入るわけでなし、入っても介護保険だの何だのとお国は勝手に引いて案外貰えないし、どんな仕事でもして貰わないと困るわ、と奥様。本人には言えないけど、家に居られても邪魔だし!
もうね、我が家も定年後のそんな情景が目に浮かびます。
もちろん、この奥様のモデルは私ではないよ(ホント?)
今迄家族のために一生懸命働いて来たのだから、ゆっくりしてね。
と黒木瞳演じる奥様は優しく言いつつも、自分は美容師で仕事は忙しいし充実している。だから、あなた、勝手にやってね、というスタンス。
舘ひろしは、そんじょそこらの還暦男とは全く違く、背は高く足は長く、ダンディーで、ハゲ・デブなど無縁の方。
ジムで腹も引っ込んだし髪を染めてスーツを着れば、もうカッコいいのなんの。
私なら一緒に温泉旅行行きたい旦那さま。しゃーない付き合ってあげるなどとは申しません。
娘に恋でもしたらとからかわれ、奥様には恋したら惚れ直すなんて言われ、あげくに広末涼子登場で、恋しちゃったとのたまう、ひろし。
ヒロシです♪(盛岡弁で)
なんじゃこの家族。
石川啄木が繋いだ恋。
この広末演じる女性は童話を書いていて、出身が岩手ということもあり、宮沢賢治が好き。
これは私も身を乗り出した。
賢治さん、大好き。
昨年、ようやく花巻に行き賢治の旅をして来たばかり。
かなりマニアックな場所も行き、賢治の畑(自耕の地)では叫び涙してきた。
ちなみに畑には遠くに人が居てオバハンの奇声に驚いたようだ、全く気が付かなかった。
恥ずかしくて急いで走り去った。ピュー。
岩手で元ラクビー部というのも良かった。
ラクビーは新日鐵釜石の試合は何度も観に行ったから。
松尾、の時代です。
そんなこんなでストーリー以外のところに素敵な要素があって、楽しく観れたよ。
定年後もジムに行き、恋して、新しい仕事を見つけ、と十分、終わってなかった主人公。
残念なのは、勉強をしたい、大学院に行きたい、という志が全うされずに、カルチャースクールも中途半端だったこと。
借金・家庭崩壊の危機でものんびりしてそれほどこたえてないのが不思議。
もっと取り乱して欲しかった。
ラストの桜が綺麗で、これからの明るい未来を表しているようだった。
その桜の遠景で終わったら、もっと良かったけど。
正直リアリティーはなかったし、2時間ドラマ並みの薄さだったが、自分の将来を考えるきっかけになりそうだし、楽しく観れた。
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