柏エシディシ

クワイエット・プレイスの柏エシディシのレビュー・感想・評価

クワイエット・プレイス(2018年製作の映画)
4.0
完璧な90分。マスターピース。
常日頃自分は映画の完成されていない即興性や不完全な部分や情報量の多さを愛しているからこそ、逆説的に、一切の無駄の無い、精巧にデザイニングされたこういう映画を観ると、40、50年代の名画を観ているようで、死ぬほど嬉しくなる。
直近の同ジャンル映画では昨年の「ウイッチ」にも感じられた素養。

卓越した映画は常に、スクリーンの中で活写されている事柄を越える物語の広がりや寓意性を孕んでいるものだけれど、この映画はその点において、新しいくて、且つ普遍的。

「〜してはいけない、〜出来ない」というソリッドシチュエーション映画の多くはフックの面白さの範囲を出る事のない凡庸な作品であり、本作においての「音を出してはいけない」という仕掛けも直近の「ドントブリーズ」というスマッシュヒットを簡単に思い出せる程度には新鮮ではない。

しかし、この映画が「音を出したら殺される」という恐怖を媒介に語りたい主題は、単なるお化け屋敷的なインスタントな恐怖ではなく、「この先行きのわからない最低最悪な世界で家族を持つ事、子供を持つ事の恐怖」「家族や類する近しい人の(この言葉の持つ響きに戸惑いを常に感じるけれど、ここでは敢えて使わせて頂きます)「障害」を持っていることを受け入れる事の不安、そして受け入れてもらえるかという疑念」というある意味普遍的で誰しも持つ「恐れ」そのものだという事。
そこに、ホラー映画というエンターテイメントフォーマットに未だかつてないほど精密に落とし込みつつ、誠実に回答しようとしている点こそが、本作がフレッシュであり、傑作たる所以だと思う。

この物語の主演、脚本が監督とエミリーブラントの実際の夫婦である事、長女リーを聴覚障害のミリセントシモンズが演じたことはある意味必然でもあり、作品の説得力の強度は間違いなく増している様に思う。
「怪物」に打ち勝つ「武器」=強さが、彼の思いの象徴であるところの「其れ」であるということに涙を禁じ得なかった。

また、コミュニケーションツール過多により、却ってコミュニケーション不良に陥っている様に思う我々現代人にとっても、アボット家の在り方は示唆的の様にも思える。
シンプルな構成のこの映画はまだまた豊かな物語を湛えている。

もちろん、外界の喧騒から遮断された劇場という場所だからこそ、100%堪能出来る映画。是非、スクリーンで。
柏エシディシ

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