ブルームーン男爵

フジコ・ヘミングの時間のブルームーン男爵のレビュー・感想・評価

フジコ・ヘミングの時間(2018年製作の映画)
4.5
フジコ・ヘミングの素顔に迫ったドキュメンタリー。上映2日目にシネスイッチ銀座に観に行ったのだが、2時間前でもチケットの残数が少しという盛況ぶりだった。

パリ、ベルリン、ブエノスアイレス、NY,LA、東京、京都など、世界各地を飛び回るフジコ。そんなフジコと旅行気分に浸れるドキュメンタリー。撮影しているカメラマンとウマが合うのか、笑顔やジョークを言うヘミングさんがとてもチャーミング。スターバックスやマックでコーヒーやシェイクを飲んでいる姿がとっても意外だった。

パリ、京都、東京、ベルリンなどの彼女の自宅も登場するが、各都市の自宅ごとに趣が違う。歴史ある家具が置かれたパリの自宅、自然豊かなLAの自宅、長屋を改装した歴史を感じさせる京都の自宅、フジコの母が残した東京の自宅など、どれも彼女らしさ溢れる。愛猫家のため各自宅に猫がいる。世界中を飛び回るので、知り合いに世話を頼んでいるらしい。芸術、猫たち、愛する友人に囲まれた彼女の生活がなんとも羨ましい。

コンサートシーンもリアルで、南米でのコンサートではピアノがコンサート用ではなかったり、指が黒くなってしまうほどオンボロのピアノを弾いたり。聴力が完全には回復していないので、東京での演奏ではオーケストラとタイミングが合わない・・・。彼女の演奏を批判する人も少なくはない。たしかに、ポリーニなどの登場により、ピアニストに求められる技巧は上がってしまい、昨今の国際ピアノコンクールの入賞者と比較すれば、彼女の打鍵や技巧は危なっかしい。しかしながら、大勢の観客は彼女の演奏を求める。アスリートのような演奏に聴きなれた現代人だからこそ、彼女の芸術的でクラシカルな演奏が好まれるのだろう。彼女は聴力を失ったおかげで、技巧偏重の潮流から離れることができ、クロイツァーなどに教えられた19世紀的な演奏を現代に伝えることができたのかもしれない。理由づけはなんにせよ、彼女が世界的に人気なのは紛れもない事実だ。

本ドキュメンタリーを通してフジコ・ヘミングというピアニスト・芸術家の素顔が垣間見れて、とても良かった。ぜひ多くの方に観てもらいたい。