Rick

トップガン マーヴェリックのRickのレビュー・感想・評価

4.7
 技術革新による自動化、遠隔化が進む先に、人間の果たすべき役割はどこに残っているのだろうか。それも戦場という危険地帯において。死ぬ必要のない生命を、死地に送り出す意味とは。いずれ古びて消えていく場所かもしれないけれど、まだ人間にしかできないことがある。そのためには自分の限界を超えてなお、死なずに帰ってくることが何よりも肝要なのだ。
 マーヴェリックの本質は変わっていない。相棒グースを失い、無謀なだけの一匹狼でなくなったあの時から。退役もせず昇進もせず、ずっと大佐のまま。パイロットとして限界を突破することだけを、生き様にまで昇華させた。でも永久に消えない傷として、常に大切な人を失う恐怖も抱えたままである。自分よりも未熟な人をパターナリスティックに保護しようとしてしまう。本作はそんなマーヴェリックが、メンターの素質を得るための成長譚である。
 80’sリバイバルで懐古に浸ろうとするものが濫造される中で、ここまで上手くバランスを取ったものが作れたことが驚きだ。しかも80‘s的な雑さをある程度残した上で、現代の観客でもちゃんとブチ上がれるようなエンタメになっている。この40年でトム・クルーズがやってきたことの全てが、物語に乗っている気がする。2枚目俳優時代から着実に積み上げてきた演技力や貫禄、CG全盛期でありながらも頑なにアクションだけは生身で行うという信念。そのトム・クルーズの姿がピート・マーヴェリック・ミッチェルとオーバーラップして見えてしまうのだ。やっぱりスター映画なんじゃないか。
 前作から引き継いでしまっている問題点としては、敵の不在、人格のなさだろうか。ならずもの国家と断定して無邪気に攻撃を加えることの痛みを嫌というほど経験しているはずなのに、そこの批評性はどうしても薄く思えてしまう。ヒロインのペニー・ベンジャミンの役割が「ヒロイン」以上のものがなかったのも少しだけ残念。それでもエンジンの唸りはカッコいいので、見るなら映画館で。
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