あんがすざろっく

スリー・ビルボードのあんがすざろっくのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.8
片時も目を離せない作品でした。
無駄な描写は一つもなく、有無を言わせず見る者を引きずり込む。

主人公のミルドレッドは、一癖ある人物。
周りの目などお構いなし、自分のすることに疑念を持たない。
彼女は町全体、警察をも敵に回す。
それが、様々なものを壊すことになっても。


保安官のディクソンは、短気で倫理観や道徳観が欠如している。
母親の影響も多分にある。
署長のウィロビーを父親のように慕っているが、彼がいなければ、どこで道を踏み外すかさえ怪しい。


署長のウィロビーは、とても温厚な人物で、住民からの信頼も厚い。
ミルドレッドの起こした行動に思うところもあるのだが、彼は彼なりに職務を果たそうとする。
自分の身にいずれ降りかかる出来事を知りながら。



僕にとって、アメリカ社会や人種差別の歴史を、深く掘り下げて調べるきっかけを作ってくれた「ミシシッピー・バーニング」同様、アメリカ南部(正確には中西部)のミズーリ州を舞台にしており、そして「ミシシッピー〜」で心優しいヒロインを演じたフランシス・マクドーマンドが、今回は頑固でとっつきにくい主人公を熱演、見事アカデミー主演女優賞を受賞しています。
多分「ミシシッピー〜」を先に見ていなかったら、本作の見方はまた違ったものになったのかも知れません。

サム・ロックウェルが演じたディクソンのキャラクターさえ、こんなんで警官になれるのか?と疑問に思っていたかも。
本作の演技で、ロックウェルもアカデミー助演男優賞を獲得。
それも納得の名演。

でもやっぱり、ウディ・ハレルソンだな〜。
いつもなら、彼がディクソンのようなキャラクターを演じてましたよね。
ロックウェルもハレルソンも、僕には二人ともアカデミー助演男優賞ものです。


前述で「ミシシッピー〜」を挙げましたが、本作の舞台であるミズーリ州は観光の要所であり、南部ほど人種差別も強くは残っていないように見えます。
ディクソンのようなレイシストはいるのだけど、これはしっかりした教育をまともに受けられなかったが故。
多分、母親もそうなのでしょう。


中盤の衝撃的な展開は、思わず声が出ちゃいましたよ。
「わっ、何で⁉️頼むからそんなの止めてくれ‼️」って。
ある意味で、劇場で観てなくて、本当に良かったと思う。



怒りが怒りを来す。
正にこの言葉通りの作品です。
この言葉の意味に辿り着くまで、見る側もじっと我慢しなければならない。


そして、我々が日常的に使う言葉。
本作では、たったの一回しか登場しないのです。
だからこそ、重みが増してきます。


その結末は、きっと誰もが予想していない終幕。
不思議な余韻と心地よさ。


また一つ、素晴らしい作品に出会えました。
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