ベイビー

スリー・ビルボードのベイビーのネタバレレビュー・内容・結末

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.7

このレビューはネタバレを含みます

久しぶりに魂が震える映画を観ました。

とにかく話の進め方が上手いです。冒頭の5分で作品に引き込まれてしまいました。特に話のキモである広告の見せ方が見事で、正面から見れば、3→2→1となる順番で広告を見せ、「?」「⁈」「‼︎‼︎」と広告を掲載した意味が明確になり、物語の起承転結の「起」を完結にかつ効果的に表現しています。

その後の話の展開も予測ができず、人間の心情はもちろん、善悪を含めた倫理感まで目まぐるしく移り変わります。しかし、かと言ってキャラクターやストーリーがブレているのではありません。ただあるのは人の心の作用反作用で、登場人物たちは皆、誰かの怒りや悲しみに翻弄されながら、自分の正しいあり方を探し続けるのです。

結局、広告に出した三つの問い掛けの答えは出ませんでしたが、ミルドレッドが冒頭敵役だったディクソンに対し、最後に見せた笑顔はそれまで見せる事がなかった本物の笑顔です。その笑顔に辿り着くまでに、人が深く傷つけ合って、悲しみ合って、許し合って、その果てに生まれる人間の本質をうまく捉えている作品だと思います。

ミルドレッドが広告を出した理由の一つは、娘への罪の意識からです。「自分が自動車さえ貸してやれば…」と、悔やんでも悔やみ切れない過去があります。それはミルドレッドの元夫チャーリーも同じで「自分が娘を引き取っていれば…」と悔やみ、元妻に嘆いています。

また、中盤の衝撃的なシーンとして、ウィロビー署長が自殺します。ウィロビーが自殺をした理由は、仕事が怠慢だと罵られ広告看板を立てられた理由ではなく、末期癌の自分が美しく家族と別れたいからであり、最愛の妻に惨めになって行く自分を見せたくなかったからだと言っています。その妻も夫が自殺したその日に困惑しながらも、恨みしかないミルドレッドに夫が書いた手紙を持って行きます。それはきっと、夫が最後に残した手紙だからであり、どんな心境であれ、それを渡すのが妻の役目だと感じたからだと思います。

それとまた別の話として、ディクソンの母親が息子にろくでもないアドバイスをするシーンが何度もあります。それは母親は息子が可愛いからこそであり、ミルドレッドが広告看板を立てた理由、ウィロビーが自殺した理由同様、母親の言葉の中には何を第一に守るべきか、何を優先すべきかがはっきりとしています。
彼らの言動は、SNSで発達したような第三者が思う善や悪などの倫理感は全く意味がなく、人が人を思う行いには、必ず「愛」が宿っていて、その「愛」が人の倫理を超越し、その思いは誰にも汚すことができないものだと、作品が語りかけてきます。

そしてディクソンは、ウィロビーからの手紙の中で、刑事になる為の心得として「愛を持て」と言われます。それからのディクソンの行動は私が言うまでもありませんが、この映画はディクソンの心の変化を丁寧に描きたかったと言っても過言ではないと思います。ディクソン役のサム・ロックウェルのアカデミー最優秀助演男優賞獲得も本当に納得です。

あと最後に、病室でレッドがディクソンにオレンジジュースを与えるシーン。あそこも最高でした。
ベイビー

ベイビー