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スリー・ビルボードのryosukeのレビュー・感想・評価

スリー・ビルボード(2017年製作の映画)
4.6
本当に「良くできている」という言葉が似合う作品。
全編緊張感を緩めることなくテンポよく進んでいく。内容はかなり心苦しいものだが。
娯楽映画として高い完成度でありながら、赤と青が印象的に用いられた画も美しいし、ロングショットは毎回ばっちり構図をキメてくる。
唯一無二の個性があるという映画ではないが、おそらく様々な先行作品のエッセンスを的確に組み合わせており、残念な部分もほぼない。
強いて言うなら、放火の際に警察署にたまたまいるサム・ロックウェル、彼と広告屋の病室がたまたま一緒、店で偶然居合わせる元夫婦、というあたりの一連の流れはちょっと出来すぎな感じもするということぐらい。そこらへんのリアリティとテンポはある程度トレードオフなのでまあ、という感じだが。
差別感情は強烈に描かれる。ポリティカル・コレクトネスとか言うなら、マイノリティを適当に配役してファンタジー見せるんじゃなくて、本作のように差別の苛烈な実態とか見せないといけないよなあと。
サム・ロックウェルの、ゲイゆえの「真っ当な白人男性」への執着からくる人種差別など良く描かれていた。
窓から広告屋を放り投げるシーンは唯一の手持ちカメラ長回しで臨場感を生み出す的確な演出。このシーンはハードな場面でソフトな音楽を流して強烈なギャップを生み出す、黒澤の「野良犬」などでも使われていた演出もばっちり。警察署放火シーンでも同様の演出が見られる。このシーンはこなれたクロスカッティングで緊張感を煽る。
看板を消火するシーンも素敵。カット割りが気持ちいい。
フランシス・マクド―マンドは評判通りの好演だった。
突然の暴力、飛び散る血液(注射器を投げるシーンが強烈)に北野映画っぽさも感じる。歯医者のアイデアとか「アウトレイジ」ではないかな。
ちょいちょい愛の話になりかけるのだが、結局単なる良い話に持っていくのは拒絶するバランス感覚も良い感じ。
締めのタイミングも品がある。再生の僅かな兆しのみをサラッと見せる。
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