こたつむり

ブリグズビー・ベアのこたつむりのレビュー・感想・評価

ブリグズビー・ベア(2017年製作の映画)
4.4
★ ぼくは誰なんだろう?
  そんな問いが波のように繰り返し繰り返し

徹底的に理想論を描いた物語でした。
だけど、冒頭に描かれるのは闇。
荒野の中で茫然と立ち尽くす姿なのです。しかし、夜明け前が最も暗いように、それは仕方のないこと。理想を語るには底辺から始めるべきなのです。

それに底辺だって悪い場所ではありません。
大海を知らずとも空の高さを知るように。
誰もが“何か”を知り、それを抱えて生きているのです。だから、本作は底辺すらも否定しません。そう。それが徹底的な理想論なのです。

あー。なんて素敵な物語なのでしょう。
フィルムの隅から隅まで満ちているのは肯定。
指の先までじわりと温かくなる気持ち良さ。
気付けば頬は濡れて、胸の奥がきゅっと掴まれる…最高ですな。

だから、僕は語りたくないのです。
言葉にすれば霧となって消えてしまう…淡い光を大切にしたい…そんな気持ちで満載なのです。勿論、本作の素晴らしさは伝えたいのですけれど。

ゆえに簡潔に書くとしたら。
『北風と太陽』の童話に喩えるのはどうでしょうか。コートを脱がせるために風で吹き飛ばすのではなく、じわりと暖かくしてあげれば良い。そう。それは人生を肯定することと同義。

また、本作は親の立場で鑑賞すると格別な逸品。何が子供のためになるのか…そんな問いを毎日繰り返しているのが親ですからね。血の繋がりだけが親子の絆ではない…と実感する物語なのです。

まあ、そんなわけで。
広大なアメリカだからこそ成り立つ物語。
良い意味で言えば、B級映画を悪しざまに罵りながら愛する “寛大さ”。悪い意味で言えば、主人公が育った環境をフィクションとして片付けられない“怖さ”。この二面性を見事な形で昇華した作品。映画が好きな人には全力でオススメですよ。
こたつむり

こたつむり