はまたに

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のはまたにのレビュー・感想・評価

4.4
『ラッカは静かに虐殺されている』の次に観たのがまさかの『光州は静かに虐殺されている』だったとは…。

1980年代に入ってからの北じゃなくて南の朝鮮でこんなことがあったことに、不勉強ながらとにかく驚いた。無茶苦茶やん。そして、『ラッカは〜』のあの団体と同じく、こちらも外に漏れない当地の惨状を世界に知らしめるための奮闘が描かれる。どちらも実話で、どちらもバカバカしいことで命が失われている。ほんと馬鹿なんじゃなかろうか。

映画は往年の香港アクションムービーかってくらいに“ひょうきん”なコメディタッチからどんどん深刻さの度合いを高めていくのだが、これを主演ソン・ガンホの表情が見事に体現していて別の意味でびっくりする。ねえ、「血の気を失った顔色」って演技でできるもんなの?

あれメイクじゃないよね。あんな大画面でもわからないメイクだったらそれはそれですごいけど、演技でやってるんだったらもっとすごい。ほんとに生気が失われて土気色になってんだもん。前後半で顔つきがまるで別人。そこで自在に表現される疲労や戸惑いや葛藤や覚悟。あんたすげーよ。役作りのために絶食や不眠でもしたのかなとか余計なことを思うくらいにはすごかった。

脇を固める役者も、気のいいおっちゃんと思いきや激アツなユ・ヘジン、芸人のサツマカワRPGにそっくりなリュ・ジョンヨルと素晴らしく、むしろ物語のカギを握るトーマス・クレッチマンの方に「ドイツ人もうちょい演技せーよ」と思ってしまったほど。まあ、落ち着いたドイツ人と激情型の韓国人が違うのは当たり前ではあるけど。

物語は実話の持つジャーナリズム精神を尊重したのか、カーチェイスシーン以外は過度な虚構化は避けているように思われた。描こうと思えばビルや光州や韓国からの脱出に絶体絶命と間一髪のスリルを織り交ぜて『アルゴ』みたいにできたと思うんだけど、そうはしなかった。これは監督の美意識なのかなと思う。個人的にはもっと大げさでもアリだったけど、いずれにしても見応えのある作品でした。

余韻には『善き人のためのソナタ』みたいなものもあり(あそこはセリフいらなかったなあ)、そこも含めて、日本公開される韓国(とインド)映画にハズレなし、との思いを強くする次第でした。韓国のうどんは細い!
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