みれい

タクシー運転⼿ 〜約束は海を越えて〜のみれいのネタバレレビュー・内容・結末

4.5

このレビューはネタバレを含みます

(字幕版鑑賞)

前から気になっていて、最近Amazonプライムビデオで見放題になっていたので鑑賞。
面白いしテンポもよく、2時間半があっという間に感じた。
光州事件のことは聞いたことがあった程度で、詳しいことは全然知らなかった。
この映画のあらすじも詳しく調べずに観たため、実話が基になっていることにも途中まで気が付かなかった。
光州事件を知らなくても楽しめたけれど、あらかじめ勉強してから観ればよかったと少し後悔。
たった40年ほど前にお隣の国で、こんな恐ろしいことが起きていたことに驚いた。
戦争映画を観ているようだった。
こんなに残虐な事件だから私が知らなかっただけで、多くの人は知っているのかと思ったけれど、レビューを見る限り意外と知らない人も多いのかな。

タイトルとパッケージから、一見ほのぼのとしたサクセスストーリーのように感じるが、全然違っていた。
評価が高いし、主演のソン・ガンホが見たくて軽い気持ちで観たが、観ているのが辛いシーンも多くて、鑑賞後はしばらくどんよりとしてしまった。
かといって全体的に重い感じではなく、笑えるシーンやほっこりするシーンもあるし、ソン・ガンホの影響もあり、基本的には明るい作風だったように思う。
観やすかったけれど、それだからこそ胸が痛くなるシーンも多かった。

光州に入る当たりからだんだんと重い空気になっていくのが観ていてハラハラした。
マンソプはお金目当てで仕事を奪っただけだったのに(仕事を奪うのはいけないが)、こんなことになるとは思っていなかっただろうなぁ。
仕事とはいえ、変なことに巻き込まれる前に帰りたくなるのは当然だろう。
どこまでが実話なのかは分からないけれど、同じ国にいた人でさえ、光州で起きていることをよく知らなかったというのが怖い。
出入りを規制して、外部に漏れないようにしていたんだろうな。

光州で出会ったテスルの家でみんなでご飯を食べるシーンは、その前に揉めてはいたが、ピーターと打ち解けてきていることがよく分かったし、今まで無愛想だったピーターも楽しそうにしていて、この映画で一番ほっこりするシーンだったと思う。
一番というより、唯一と言った方が正しいのかもしれないけれど。

ジェシクのことは初め無愛想な子だなと思ったけれど、だんだんとマンソプやピーターと仲良くなって、笑顔が増えていくのが可愛らしかった。
ピーターの居場所を教えないと自分が殺されてしまうのに、ピーターに逃げて光州の事実を伝えてと言ったジェシクは勇敢だと思った。
ジェシクに愛着が湧いてきていたので、その後撃たれてしまったのは余計胸が痛かった…。

テスルは困っている人を当然のように助けることのできる、すごく温かい人。
こういう叔父さんほしい。
光州から出る時、軍人に追われるマンソプとピーターを助けるために、自分の命を懸けて助けるシーンなんかはもう、胸が苦しくて泣いてしまった。
映画を観て泣いたのは久しぶり。
他人のために自分の命を犠牲にすることが必ずしも良いことだとは思わないが、テスルも、テスルの仲間も、会って間もない他人(テスル以外は多分マンソプともピーターと面識もない)のために自分の命を犠牲にできることがすごい。

マンソプは一度ピーターを置いてソウルに帰ろうとしている。
一緒に帰ればいいものを、どうして置いていってしまうんだろうと思った。
ピーターは軍人から狙われているから一緒にいたら厄介なのは分かるけれど…。
引き返すシーンでのソン・ガンホの表情がとてもよかった。

光州を去る前の検問で、ピーターのことはまだ伝えられておらず、カメラも上手いこと隠したが、トランクからソウルナンバーのナンバープレートが見つかってしまう。
見つけた軍人が見逃してくれたのは何故なんだろう。
でもそのシーンで、軍人さんも命令されているだけで、自分達がしている行為はおかしいと思っている軍人さんもいたんだろうなと思った。
その後のシーンのテスル率いるたくさんのタクシーは何処から入ってきたのか?
あのシーンは良かったけれど、あのシーンで一気にフィクションぽくなってしまった気がする。
まぁあのシーンでまんまと泣かされたのだけれど(笑)

別れのシーンでの、2人のお互いを見る目が素敵だった。
私がこの映画で一番謎に感じたことだが、何故マンソプはピーターに偽名を使ったのだろうか。
もう会うつもりはなかったんだろうけれど、私なら絶対に再会したいと思うから驚いた。
もうこのことは忘れたかったのかな。
あんなに再会したがっているピーターを見て、何故再会しなかったのか理解ができなかった。
是非とも再会してほしかった。

実際に、ピーターのモデルであるユルゲン・ヒンツペーター氏と、タクシー運転手だったキム・サボクと名乗った人物は、再会することはなかったみたいだ。
ヒンツペーターさんは2016年、再会できないまま亡くなったみたいだけれど、最後のヒンツペーターさんが会いたがっている映像を見て切なくなった。
この映画をご本人に観てほしかった。

しかし、この映画を観たキム・サボクさんの息子さんが、キム・サボクは自分の父親だと名乗り出たらしい。
映画作成時には実際の人物を探したが見つからなかったため、キム・サボクの設定はフィクションとなっているけれど、実際にはヒンツペーター氏とキム・サボクは光州事件が起こる前から交流があったみたい。
そもそもタクシー運転手ではなく、この仕事も危険を承知で引き受けたみたいだ。
それだと余計再会しなかったのが不思議に思えたが、光州事件の4年後に癌で亡くなっていたらしい。
キム・サボクは本名で、実際は偽名を名乗ったわけではなかったみたいだし、病気で再会できなかったのかもしれないな。
光州事件の様子を実際に見て、ショックを受けたのもあると思う。

今は2人とも亡くなっていて、再会できなかったことは悲しいけれど、この勇敢な2人によって、光州事件の実態を世界中に知らせることができたのは事実だ。
実際に私もこの映画を観て、光州事件に興味を持った。
実際には市民も銃を持っていたみたいだし、公式で発表されている犠牲者数よりももっと犠牲者は多くいるようである。
デモが拡大しすぎたとはいえ、国が市民を攻撃していたことが本当に恐ろしい。
ピーターが危険な状況なのにも関わらず、カメラを回し続けたのにはハラハラしたけれど、その信念は素晴らしいと思った。
途中で韓国の記者が、クビを覚悟して、新聞を発行しようとするシーンなんかもグッときた。

ソン・ガンホの演技は、吸い込まれるような感じがしてすごく好き。
マンソプはハマり役だったように思う。
もう一度観たい。
この他にも、光州事件を取り扱った映画を観てみたいと思った。
みれい

みれい