しゃび

Visionのしゃびのレビュー・感想・評価

Vision(2017年製作の映画)
4.3
生と死を分けるものは何か。
肉体と精神を分けるものは何か。

宗教は「あの世」と「この世」という概念を使ってこれらを説明する。

『ブンミおじさんの森』ではその境目は曖昧であり、生も死も同じ肉体を持った存在として混在していた。

この映画でもその境目は曖昧であり続けるが、「肉体に精神が留められていること」をもって生を規定している。

ここで描かれているように生と死がシームレスであったならば、生とは固執すべき対象ではなくなる。いやそれどころかむしろ生は、人から幸せを奪うものなのかもしれない。


(ここからネタバレ含みます)


男は
「幸せはその人の心の中にある。」
「見るもの。聞くもの。触るもの。感じるもの。それが全てだ。」という。

女は
「それを誰かと共有したい」という。

しかし肉体は「共有」を拒む。
体を交えたところでそれは叶わない。
あくまで肉体を持った精神は、孤独な「素数」であり続ける。

「1000度の熱とともに人の痛みを消す」というvisionは、肉体を精神から引き離して痛みを癒す存在なのかもしれない。だとすると痛みとは、生きているから抱えなければならない人間の業なのだろう。


河瀬直美作品を観ると、映画はこうでなくちゃという気持ちにさせてくれる。

映像に映り込んだ人と風景、そこに自然の音色、人工的な物質が奏でる音、人の体から発せられる音が重なる。そのアンサンブルが気持ちいい。

TEDに登壇した際、河瀬直美は
映像(=映画)によって、「感覚を共にすることができる」と言っていた。そう、僕らは映画という装置を体験することで、彼女と感覚を共有しているのだ。

彼女と共有した感覚は、繰り返しの日常で鈍感になってしまった僕の感覚よりも遥かに鋭敏で、キラキラしている。


彼女はTedの最後を

「この世界は美しい」

と締めている。
その言葉の通り、この映画で映し出される世界は本当に美しかった。

やっぱり大好きな監督。
しゃび

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