えびとまと

枝葉のことのえびとまとのレビュー・感想・評価

枝葉のこと(2017年製作の映画)
5.0

波は微塵も立っていないように見えて、隆太郎の内面では常に荒ぶる情が波を立てている。日常のあちこちに転がる、どうすることもできない、思うようにいかないことへの不可思議な苛立ち。歩くたびに、それが身体的に出てしまっている。前へと足を動かしながら、隆太郎は何をどう考え、生活しているのか。とてつもなく狭い範囲で語られる、とある27歳の暮らし。

隆太郎の中では、きっと言いたいことはたくさんあるはず。けれど、大多数の人々がきっとそうであるように、自分の気持ちを素直に吐露できるほど、隆太郎は非社会的な人間ではない。人前では口数少なく、タバコを吸い、酒を飲む。家では小説を読み、時間があれば、恩人であり病に侵されている友人の母親を見舞う。それなりに生活は作れている。

けれど、いつまでも内で犇く激情を抑えられるほど大人でもない。決壊は起きる。ただ、隆太郎にとって、それが決心の表れだった。

今作の、くだらない周囲に対する苛立ちを抱える主人公は、同じく二ノ宮監督による今年公開の『お嬢ちゃん』のみのりへと繋がっているように思えた。物事をハッキリと口に出すことができて、反面、社会が求める社会性というものは希薄な淡白な人物像であるみのりに対し、今作の隆太郎は、同じく淡白な人柄でありながら、どうにか社会に馴染もうとはしていて、感情の制御にも長けていて、みのりとは対照的なもの静かな印象を受けた。こうしてみるとなんとなく、今作の隆太郎の理想系として、みのりが存在しているようにも思えてくる。みのりは『お嬢ちゃん』終盤、今ある幸せについて語っていた。これはたぶん、今作に対する、隆太郎及び二ノ宮隆太郎監督のアンサーなのかもしれないわけで、そうなると今作が二ノ宮監督にとってどれだけ重要な作品なのかが汲み取れる。

今感じている、世間に対する苛立ちも、自分にとって曲げられない信念があるから、大切な想いがあるから、今作も『お嬢ちゃん』同様、根幹の奥深くにある優しさが垣間見れる、いつか思い出すことになりそうな青春映画だった。
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