えびとまと

ドッグマンのえびとまとのレビュー・感想・評価

ドッグマン(2018年製作の映画)
5.0

もう凄い映画。今年の中でもトップクラス。これが映画だ、と見せつけられた。

画が物凄く好み。全体的にモノトーンな色合いが多くて内容の暗さにぴったりだし、何よりキレイ。終盤の空の明るみと、逆光によって影に覆われた主人公の姿は特に印象的な画で、未だに目に焼き付いている。

面白いくらいにまぁ報われない。動物に優しく、街や仲間、娘を愛し、真面目にトリマーとして働く心優しい主人公でありながら、シモーネという悪い縁を断ち切れない。弱腰で、どこまでも従属的。それでいて周りの目も気になって、シモーネを嫌う仲間の間でもいい顔をしている。両端にいる人と人との間で板挟みになって、どこまでも窮屈な思いをしている。その中途半端さが平衡を保っていたそれぞれの関係にズレを生み、主人公をとことん孤独の底へと突き堕としていく。

どれだけ普通にいようとも、繋がってはいけない縁によって、気がつかないうちに自らの意思と思考、自由の一部が削り取られていく。次第に人でなくなり、人は離れる。弱者はどこまでも人と人との間から生まれる圧力に捻じ伏せられてしまう。あまりの理不尽さに、言葉も出ない。ラストの主人公の表情のように、茫然としてしまう。不思議と、これが世の道理か、と納得もしてしまう。

しかし世の中、そういった理不尽極まりない形而上的な流れに抵抗する、人としての良心も常に動いている。誰かを想い、愛している。本作の主人公は、不条理と湧き起こる卑しい気持ちと闘った愛ある弱者であり、小さな勇者だった。その姿はある種、世界に対する諦観の象徴にも、希望にもなるのではと思えるし、これぞ現実と地続きとなる生きる糧となるフィクションなんだと思えた。

万人には向かない。それでも、なくてはならない映画。
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