えびとまと

おいしい家族のえびとまとのレビュー・感想・評価

おいしい家族(2019年製作の映画)
2.9

家族なんてなんだっていいでしょ! といった万人ウケするよくあるほのぼの劇。というだけでもなく、リアリティと映画的演出が上手い具合にマッチした日常シーン、セリフも随所に見られて、存在する家族そのものを観るように作品の世界にすんなり入り込める、ドラマある作品だった。

異質な自分、普通の自分、変わりたい自分、変われない自分、様々な影響を受けて悩み続ける自分の在り方。それら全てを受け入れてくれる、生きていればそれでいい、といったセリフ。何べんも聞いたことがある単純な言葉のはずなのに、未だにホッとしてしまう。そして、ただ生きているだけのそのままの自分を見失わずに、そういう言葉をかけてくれるのが、産まれてからずっとそばにいる親や子なのだと、実家の風呂に浸ったような安心感を抱ける。

他人なら許せることも、昔から何も変わらないと思っている血縁者だからこそ、なかなか変化に寛容になれない。そんなマジョリティとマイノリティの個人の価値観と家族を結びつけているのにも時代性を感じて、『万引き家族』を観たときと同様、小津作品の家族と比べて面白みを感じる。

あと、現実から目を背けようと全力でヘソを曲げる松本穂香の『この世界の片隅に』の優しさと『アストラル・アブノーマル鈴木さん』の荒々しさが合わさったような、オーバーすぎない自然体で可愛らしい演技もまた見事で、まさにナイス松本さん!であった。主演作がまだまだ控えているのもめちゃくちゃ頷ける。

自分のため。存在を肯定してくれる誰かのため。食って、寝て、生きろ、と叫んでくる実家のオカンのような、やかましくて、優しすぎる映画。

夜道のシーン、好きなんだよな。
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