えびとまと

象は静かに座っているのえびとまとのレビュー・感想・評価

象は静かに座っている(2018年製作の映画)
5.0

2019年が終わろうとしているこの時期にこそ、出会えてよかった。人間なんて、人生なんて、世界なんて、全部くそ。生きていても、ロクなことにならない。不運なことばかりに遭遇して、どうしようもなくなって、これまでの自分が廃れていく。自分は悪くないのに、悪くなるのは自分だけ。234分の中に詰まっている映像の大半は、そんな叫びを具現化した、目を背けたくなる現実。映画だけれど、映画の形のまま消費されていくには惜しい。自ら命を絶った監督による、自身に向けた鎮魂歌にも思えてくる。

約4時間の長尺映画ということもあって、途中でダレやしないか、観賞前は少し不安だったけれど、それも杞憂に終わった。時間なんて、関係なかった。ただ目の前で起きる嘆きに、気持ちが引っ張られて、そのままズルズルと彼らのペースに飲み込まれて、現実を感じる暇など微塵もなかった。理不尽なことはどこにでもある。けれど、自分たちの知っている理不尽は、本当の意味で理不尽と呼べるのか。冷静になって考えてみれば、何でもないようなことに無駄な憤りを感じてはいないか。自分たちには、今目の前にある自分の世界を嘆く資格なんてないんじゃないのか。真に涙を流すべきなのは、この人たちなんじゃないか。という感じで、自分の得てきたこれまでの苦しみを疑ってしまった。世界を恨んでいいのは、きっとこの作品の登場人物たちと、今は亡き監督だけだ。

座っている象の存在が、この映画に残された唯一の希望の象徴ってところも、それでいて理由はよく分からないってところも、この作品の世界観にとっては凄い良いギャップに感じて、めちゃくちゃ好きなんだよなー。

亡き映画監督による生きている人たちに向けた人生の問い、みたいな映画だった。監督の作品、もっと観てみたかった。合掌。監督は向こうで、座っている象を見ることができたんだろうか。
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