もやし

判決、ふたつの希望のもやしのレビュー・感想・評価

判決、ふたつの希望(2017年製作の映画)
4.9
極めて政治的意味合いの濃い作りであったり、裁判がただの演説の場になったりと、苦手な要素満載の映画だったけど、後味の圧倒的な力に否応なしにやられてしまった… 後味が異様に良いという意味ではボヘミアン・ラプソディに構造的には近いかも。


些細な喧嘩がやがて国家の政治的問題に発展していく様を描いた映画。
些細な喧嘩っていうけど、本当に些細。
謝罪を要求してそれを拒否された、というだけのものがどんどん悪化していって、刑事裁判にまでなる。
この話では国内の難民問題に対する国民の意識がキーになっている。
いつの間にか難民の受け入れを国において負担と感じる右派と、難民の虐げられがちな扱いに疑問を持つ左派の争いになってしまう。



この映画ではしばしば論理のすり替えがされている。
最初はただの喧嘩でしかなかったものが、その後の悪影響までその喧嘩のせいという意識になっていく。
そしてこの特に金も持っていない二人に目をかけてくれる弁護士もやはり政治的主張を持つ人であることから、本来の当人の気持ちからはどんどん離れてしまっていく。


このままそれを発展させていくだけの映画なら自分は全く好きではないものになっていたけど、そこはやはり評判の良い作品だけあってそんなことはなかった。

やっぱり人の気持ち、感情に人は心打たれるんだよなと改めて思った。でもそれが社会的意味合いと完全に独立して存在しているかというとそれは絶対に違うということをこの映画は強く描いている。
そして一口に難民問題、と言ってもその構造はそう簡単に語れるものではないということも言っている。

そういうものが、安易なヒューマニズムに走りがちな自分みたいなタイプには結構な衝撃だった。


主人公二人が最初は個人的な思いからだったものが、色んなものの影響で何やらよくわからない感情に否応なく変えられて、それを経てまた個人的な思いに立ち返る、というこの映画の作りの説得力は、強く心打たれるものがありました。
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