まりぃくりすてぃ

負け犬の美学のまりぃくりすてぃのレビュー・感想・評価

負け犬の美学(2017年製作の映画)
2.0
きっと低予算なのだろう素人映画。取るに足らない。
ひりひりあり・ほっこりありのホームドラマとしての魅力がなくもないが、そんなのは娘役ビリー・ブレインのお顔の良さに負うばかり。結論だけあってヤマなしのストーリーは、甘っちょろコンテンツの代表であるNHK朝ドラにも劣る無気力さだ。

ヤマつくれずのほかの、悪いとこ────
❶ボクシング映画としてのリアリティーが著しく低い(ふざけんなレベル)
❷そのほかのリアリティーも総じて低め


❶について。
ただでさえミスキャストな主演男優マチュー・カソヴィッツが、役作りをサボりまくった。それに尽きる。
まず、13勝33敗の「才能なく、打たれ強いのだけが取り柄」という45才の異常経歴ボクサーだったら、顔があんなに無傷ということはありえない。世界チャンピオンであっても顔が崩れちゃってる人は少なくないのに。仮に歌舞伎町の「殴られ屋」のハレルヤアキラさんみたいに「防御の達人だった」というならまだ綺麗な顔でもいいが、よりによってマチューみたいな高めの鼻のしかも鼻梁が突き出てるような美形系は、とっくに鼻骨骨折を繰り返していて引退までは再建手術なんてできないからボロボロの顔面になってなきゃいけない。パンチドランク以前に網膜剥離の危険もありありだしね。
それと、お国はフランスだ。2018ロシアW杯での黒人だらけ(~かつてのアンリもジダンも旧植民地関係)で明々白々なとおり、きついスポーツの担い手はマイノリティーばっかりだったりするのがフランスの事情。マチューが演じた貧乏男は、アルジェリアやモロッコからの移民であった方が自然だ。そういう細かいとこに気を配ればもっとよくなったのに。
それよりも、マチューの筋肉のつけ方ね。ムダにパンパンに張った胸と力こぶ。打撃系格闘技では、必ず背中と上腕三頭筋(力こぶの裏側)と首にこそ筋肉が増える。背中見ただけでプロか素人かは見分けつく。45才までボクシングやってた体ならなおさらね。撮影直前にダンベルとバーベルでパンプアップ(血管浮き上がらせる)だけしてカメラ映えさせようとした浅はかさ。
で、マチューのやったボクシング。何あれ。「すり足」と「ワンツー(スリー)」と「コンビネーションフック」以外に何一つ身につけずに撮影に臨んだのがミエミエ。ウェービングもダッキングもできず、スウェーバックたった一回だけ。L字ガードといえば聞こえはいいけど「完全遮蔽」(両腕を立ててただただガードするだけ)が得意技? 弱いか弱くないかじゃなくそもそもプロのボクシングになってないじゃん。“強いチャンプ候補 対 冴えない二流選手”のデフォルメなんて超えてるひどさだよ。プロテストに絶対合格できない下手さなのだ。
じゃあ、なぜ、全然プロっぽくないのか。技の数よりも何よりも、まず、パンチの打ち方が「ただ手を出すだけ」だからだ。ボクシングっていうのは、連打が必ずすべての基本なので、ジャブやストレート系のパンチ打ったら、打った瞬間にもう手が元の位置に戻ってなきゃ絶対いけない。これやらないから、ボクシングに見えない。
じゃあ、なぜ手をすばやく戻せないのか。それは、グローブが重いから。たぶん、マチューは素手でのシャドーボクシングやごく軽いミット打ちサンドバッグ打ち用グローブでなら、軽快にパンチを出して戻せるんだろう。でも、試合用はおそらく10オンス以上、スパーでは14オンス以上を嵌めなきゃならない。これが、確実にマチューにとって重すぎたはず。
じゃあ、なぜマチューにはグローブが重すぎたか。練習量が足りないからに決まってんじゃん。いったいこの映画のために何カ月練習した? たぶん3週間程度だろうね。役作りで大減量した伊勢谷友介のがはるかに偉い。
そしてさ、マチューはほとんどマウスピースなしでやってたね? それもあって試合らしくならなかったんだよ。なぜマチューはマウスピをつけなかったか。マウスピってのは、どんな名選手でも、人生で初めて口に入れた時には、オエッとなっちゃうものなんだよ。嘘だと思う人は経験者に訊いてみな。口にあんな大きいもの入れっぱなすのに慣れるまで、最低2週間かかる。ましてや、口呼吸しにくいその状態で1ラウンド(3分間)全力で動き回れるようになるまでには、どんなに体力自慢な男性でも、初心者スタートだったらたぶん3カ月以上かかるだろうね。マチューは、そんな努力を今回一切しなかったんだよ。
さらにさ、ロッキーなんか見ててわかるとおり、私たちが最も「ボクシング映画らしいなー」と感ずるのは、選手役がパンチングボールを軽快に叩いてるシーン。そしてこの映画には、一度もパンチングボールが出てこなかった。なぜか。パンチングボールは、素人が叩いても全然サマにならないから。少なくとも数カ月は練習しないとパンパンパンパンパンはムリなんだよ。ボコンボッコンボンにしかならないんだよ。マチューはそんな練習したくなかったんだね?
元世界王者(しかも現役)の黒人ソレイマヌ・ムバイエを招いたんだから、彼に監修すべてやらせれば、主役が練習不足でもいっぱしのボクシング映画になると製作者は思っちゃったんだね。でも、実力差が10000000対1であるからムバイエはマチューにケガをさせないことにたぶん専心せざるをえなかったんだろう。効果音でごまかしてすべて寸止め。それはまったく悪くない。でもね、そもそも、WBAでしょ?
これは世界の常識だけど、21世紀に入ってからのWBAは、認定王者増やしすぎのせいで世界で最も権威失墜してるウンチ団体。そこでしかチャンプになれなかったってことは、、、、あまり思いたくないけどムバイエは超一流ではないよね?
と、、、、、、、、、変に経験者なのでいろいろ書いたけど、とにかくムバイエとマチューで紡いだつもりのボクシング映画、リアリティーのかけらもないから不合格。下手くそマチューが相手なら、私がミニスカ&パンプスでも判定勝ちできるかもしんない。力がないからさすがにKOはできないけど、ポイント制のアマチュアルールだったらマジ勝てるかも。マチューは俳優として負け犬になりたがってるみたいに思える。。。。。。 


❷について。
娘の弾いたバッハのメヌエットは、あらゆるピアノ練習曲の中で最もカンタン。猫ふんじゃった以下。たぶんバイエル上巻さえ修めてない人でも、1週間あれば弾きこなせるようになる。それを、あんなつっかえつっかえでしか弾けない設定ってことは、その時点で「特別に才能があるなんてことは全然ない」はず。
それはそれでべつにいいけど、たった数カ月後にショパンのノクターン、ってのが支離滅裂なんだ。リストほどじゃなくてもショパン譜は、指が長くない子供がそうカンタンにチャレンジすべき具材じゃない。指導がまちがってる。どう考えてもこの選曲はありえない。
つまり、ピアノのことなど知らない人たちがつくった映画ということ。

それと、奥さんのまるでヅラみたいな主張強すぎる髪形。ああいうドーリーボブ(長い前髪下ろしまくってのパッツン)は、いくらフランス物でいくら美容師設定でも、旦那ありの子育て真っ盛りの女性としてはかなり不自然でしょ。家族の前であけっぴろげにおでこを出すのを拒否る心理的理由が、脚本内に見当たらない。男を外に求めてるシングルマザー、あるいは鬱屈好きなキャラって設定ならわかるけど。美的こだわりあろうがなかろうが、家庭の中でいちいちびっしりな髪量ひけらかすような揺れもしない前髪で武装するもんじゃないよ。