えむえすぷらす

リズと青い鳥のえむえすぷらすのレビュー・感想・評価

リズと青い鳥(2018年製作の映画)
5.0
「響け!」シリーズの高坂・黄前組が高校2年生の時、一つ上の高校3年生のオーボ工の鎧塚みぞれ、フルートの傘木のぞみが選抜されてソロの掛け合い演奏をする事になった「リズと青い鳥」という本をモチーフにして作曲されたコンクール自由曲を背景にみぞれとのぞみの関係を描く。

ストーリーラインはシンプル。その分「リズと青い鳥」の物語と楽曲を挟みつつ、無ロなみぞれと後輩や友達に囲まれたのぞみの思いと言葉が交錯させていく。
生物教室に並んだ実験器具の番号、クローズアップされる手や指の仕草(手や指の演技は「聲の形」の成果の一つでもある)、語られる台詞と裏腹な想いが丁寧かつ緻密な描写で描き込まれている。

「聲の形」監督・脚本・作監&キャラデザ・音楽と固定してタイトルから敢えて「響け!」を外したのは「リズと青い鳥」エピソードを切り出してクローズアップして一本の作品に仕立てた為だろう(なのでフォトセッションやコンクール演奏描写は一度も入らない。徹頭徹尾のぞみとみぞれのニ人が中心で三年生部長の優子と副部長の夏紀がもう少し絡む頻度が多い程度になっている)

「響け!」シリーズファン向けには高坂麗奈はやはり高坂麗奈だった。この点では明確に「響け!」シリーズ世界なんですよね。キャラデザが西屋氏になっても確かに彼らの世界が息づいているところが京アニの制作体制の強さなんだと思う。

のぞみとみぞれ。ニ人はお互いに過剰に見ている事があってその事に気付いて行く。その過程で傷付け、相手の事に気付かず、すれ違う。そしてお互いを改めて認め合う。
普通の対人関係でこんな事は時に起きる。そこに物語がある。その物語を切り出して人に見せるに値する物を作るのは表現力がないと出来ない。山田監督のチームはそれを実践している。次の作品も楽しみだし期待してます。

前半は本稿とほぼ同じですが、後半ネタバレありで書いてます。よろしければこちらもお読み下さい。
https://mdsch23.blogspot.jp/2018/04/blog-post_22.html

追記。映画2作は観てます。テレビシリーズは未見。原作は映画を観てから読みました。
パンフ読むとみぞれ役の人がテレビシリーズで二人の関係に一区切り付いていたとの事で、そのあたりの経緯は本作では触れられてません。ただ大事なのはみぞれには何も言わずに去った事であり、理由は本筋として不要な展開をしているので問題かなと。

本作の面白さはみぞれとのぞみのディスコミュニケーションであり冒頭提示される単語の変化はその事を表している。これが「リズと青い鳥」という物語とその情景音楽での二人のソロ掛け合いを通じて全く変わってしまい、それ故にお互いのことがはっきりと見えてしまう。
丁寧にその二人の変化をすくい取って描き出している所が本作の凄さであり心理劇としての面白さだと思う。

二人が「リズと青い鳥」という物語で自分が実は誰だったのか気づいてからの展開は目が離せない。ここから4つもの見所がある。実に濃密な finest hour and a halfだと思う。