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マスカレード・ホテルのsanbonのレビュー・感想・評価

マスカレード・ホテル(2019年製作の映画)
3.7
今作は、"真犯人までの道のり"を親切にもガイドしてくれる「推理不要」系サスペンスミステリーであった。

というか、これはミステリーではなく「ハッピーフライト」のような"お仕事ムービー"として鑑賞した方が、大分しっくりくると思われる。

というのもこの映画、"推理もの"という事前情報自体が"ミスリード"だったんじゃないかと思えるくらい、はなから推理をさせる気がさらさらないのだ。

①まずパッケージがすでにネタバレ

"この中に犯人がいる"と、大々的にヒントを与えつつ出演者の顔写真が一堂に会する今作のパッケージなのだが、豪華キャストなだけあってとても印象深いその中に、劇中とは全く違った出で立ちで写る人物が一人いる。

しかも、劇中の登場シーンが他の容疑者と比べても格段に怪しく、パッケージ→本編開始30分程で大方の目星がついてしまう。

②犯人の目的も丁寧なお膳立てのおかげでバレバレ

今作は、ホテルを舞台に"刑事"と"ホテルマン"それぞれの立場から見た、経験則に基づく「トラブルの対処法」がいくつか披露されているのだが、その中で"ある一つのトラブル"だけやたらと凡例を挙げてくるものがある。

しかも、その中の一つにヒロインである「山岸」が絡むエピソードがあり、散々"重要"だと印象付けたトラブルと、それに関連するヒロインとくれば「男女のバディ」ものの"特性"を鑑みると犯人の目的も自ずと導けてしまうのだ。

③事件の本筋はややこし過ぎてめちゃめちゃ分かりにくい。

今作は、都内で起きた、殺害方法がそれぞれ違う3件の殺人を、"暗号"が必ず置き去られているという唯一の共通点を手掛かりに、同一人物による連続殺人であると結論付けたうえで、4件目の犯行が「ホテル・コルテシア東京」で実行される事を突き止める事から物語は始まるのだが、この主軸となる筈の事件の概要がまあなんともややこしい事この上ない。

この3件の殺人についても、ホテル内に設けられた捜査本部内で同時平行的に捜査が進んでいくのだが、そもそも本編内でスポットが当てられていない事件について主に会話だけで推理されても、登場人物の名前から既に着いて行けない"置いてけぼり"の状態となってしまい、「井上浩代」とか「手嶋正樹」とか「緯度と経度」とか「X4」とか、うん、わかんないからもういいや!と思ったら、案外本当に分かんなくても大丈夫だった。

というか、難しくなっていた事が逆に余計な"勘繰り"を取っ払い、結果第一インスピレーションしか残らない為、偶発的にも真犯人への道のりは気付けば最短ルートへと導かれているのだ。

このように、"分かりやすい演出のヒント"と"分かりにくい事件の概要"の"ハイブリッド"な構成のおかげ?で、推理せずとも真相に辿り着くというある意味貴重な体験を得る事が出来る。

要するに、この映画にミステリーを求めても、得られるものはあまりないという訳だ。

それでも、今作がエンターテイメントとして破綻していない理由は、冒頭でも述べたお仕事ムービーとしての側面に関しては秀逸であるからだ。

この作品の主体は"接客業"という、"最もトラブルという言葉に所縁のある職業"であり、なおかつ"おもてなしのエキスパート"であるホテルマンの話である。

それこそ"野次馬根性"がくすぐられるようなバリエーションに富んだエピソードばかりで、観ていて大変面白い。

また、トラブルに対応する際の「ホテルマンとしての信念」と、それとは逆行するような「刑事としての信念」が、はじめこそ対立しぶつかり合うが、お互いがそれぞれの領域を干渉し見識を深めていく事によって、それが事件解決の糸口へと繋がっていく展開は、今作における"舞台装置"を効果的に活用出来ていて上手いと思った。

ここは、流石「東野圭吾」といったところだ。

それこそ、しつこいくらい繰り返される「ペーパーウェイトを正位置に直すこだわり」も、信念がしっかりと事件解決に反映される上手い仕掛けだったと言えるし、やっぱりガイドライン的な分かりやすい伏線でもあった。

あと、ガイドライン的な演出といえばもう一つ「明石家さんま」の友情出演だが、あれもテロップで名前が表示されているその後ろで「チェックインしているハットを被った男」こそが正にそれなのだ。

探す手間もなく、名前の表示でお知らせしてくる辺りは「今回は徹底的に推理はさせないぞ!」という、ある意味作り手側の信念すら感じさせるようでもあった。笑
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