よしや

カメラを止めるな!のよしやのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
4.0
良質な低予算ゾンビ映画、ホラーだ、として宣伝されているがそれは違う。掴みこそホラーだが中身はひねりの効いた温かでウィットに富んだコメディ。テイストはかなりマイルドで怖さはない。

確かに低予算とホラーは相性が良い。ブレア・ウィッチ・プロジェクト、SAW、パラノーマル・アクティビティなど過去の大ヒット作が並ぶ。宣伝のイメージからこれらのホラー群に次ぐ低予算アイデア系ホラーを想像してしまう人も多いのではないか?

しかし実際はお世辞にも褒められるクオリティにない37分のワンカットゾンビホラー映画を下敷きにして、その出来の悪さをコメディテイストでひっくり返す映画。

重要なのはワンカット、つまりカメラを止めないことだ。全てはカメラを止めないことに起因しており、このタイトルは示唆的である。

雑な前半と丁寧に細かな伏線を回収していく後半の対比が上手で、前半が伏線で後半全てが大きなどんでん返しと言ってもいい。映画が好きな人ほど粗が目につく前半からの返しにドキッとするのではないか。

どんでん返しが始まり観客が何をやりたい映画なのか悟った後でもスピード感は失われず、それどころか速度を上げて最後まで駆け抜けていく。しっかり笑い所も多く、すっきり終わるため鑑賞後は爽快さすら感じる。

ただ作りの仕掛け上避けられないにせよ、後半のドンデン返しへのいわば伏せにあたる前半から中盤にかけて中弛み、飽きがあることは否めない。

否めないが力がある。生きる力、死に物狂いで映画にかける熱い想いがストレートにメタ的に存在する。

この映画はわずか2館の上映から口コミで広がり拡大上映されヒットしたが、この手の構図はアメリカの事例では目にするものの日本ではまだ少ない。

日本での事例を考えてみると口コミでロングランを記録した「桐島部活辞めるってよ」が思い浮かぶ、あれもゾンビだ。

知名度、宣伝の少ない小規模映画の公開期間は昔と比べかなり短い。チャレンジ精神やアイデアに満ちた映画でさえ大衆に陽の目を浴びることなくごく一部のシネフィルを前にひっそりと枯れる。

これは是枝裕和も言及しており、日本にアート系映画の土壌が育たない問題とも結びついている。

低予算というハンディキャップを跳ね返し内容、作りで評価され大ヒットという事実はキャスト陣のラインナップを揃えることしか頭にない邦画界に風穴を開けた。

予算や宣伝費がなくてもアイデアのある良い映画ならヒットする、そういう事例が出来たことは邦画界の明るい未来となるだろうか。
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