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カメラを止めるな!のNONAMEのレビュー・感想・評価

カメラを止めるな!(2017年製作の映画)
3.8
早い話が もし2015年の『アイアムアヒーロー』や三谷幸喜の映画が何かしらの称賛で迎えられているのなら 本作はかなり低く見積もっても その10倍の興奮で迎えられなければならなかったはずだ。そうでなければ 世の中狂っている。もしそんなことになれば どいつもこいつも目ではなく イメージで映画を観ているということだ。ここに収められた96分の物語には 思わずエドガー・ライトとロバート・ロドリゲスの両方が地団駄踏んで嫉妬するだろう ゾンビ映画とホラー映画の黄金律からの的確な引用があり それをオリジナルなものにするためのきめ細かく 多彩なアイディアがあり だが そうしたスキルを決して過剰にひけらかさず 粋にまとめ上げるだけの礼節とセンスがあり そして 日本の映画にありがちな受け狙いのみっともない真似だけは死んでもやらないという頑なな底意地がある。そうした態度は ひたすらカメラワーク(ワンカットと言えども)を多彩にさせ プロットに磨きをかけ プロダクションに多大なこだわりとちょっとした遊びをしのばさせ 逆にスプラッター描写を最小限にまで削ぎ落とさせると同時に 少しだけPOVを禁欲的にさせている。いや いくらなんでも これはかっこつけすぎだろう。もしくは 観る側のセンスのよさを推し量るための踏み絵を意図的に作ったかのような 無駄なこだわりっぷりだ。だが勿論 これとは逆に わかりやすいことをやったり 期待におもねることこそが 観客を見下す行為ほかならない。ポピュリズムがありとあらゆるものを堕落させてしまうのは ここ10年の日本の政治を見ていれば 一目瞭然だ。にしても かっこつけすぎだよ。

僕は 今でも『ゾンビ』を観ると心が震える。特にラストシーンの「まだ 行けるさ」というケン・フォリーのセリフはキラーだ。「俺達は明るい日々を見つけるだろう」 力を込めてそう繰り返すロメロは この社会の日の当たらない場所で生きることを強いられている若者を 目も眩むような陽光で照らす。役に立たないと 国家に見捨てられた若者を輝かせる。なんとしてでも輝かせる。無様な人生を最高に輝かせるのである。劇中終盤では『死霊のはらわた』サーガのような笑いもある。『サンゲリア』のような雰囲気はないけれど『カメラを止めるな!』は 迷うことなく今も明るい道を選ぶ。それがこの映画の最高の魅力だ。僕の家に三谷幸喜の映画ソフトは一枚もないけれど ロメロやフルチのソフトはたくさんある。今でも。

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