このレビューはネタバレを含みます
原題『Phantom Thread』
その名の表す通り、私たちの『繋がり』には実体がない。目に見えないけれど、繋がっている。それを考える時、運命の赤い糸なんてものを思い浮かべませんか?
…はて?
目に見えないのに、なんで赤いと言われたんでしょうね?ググッてみますw
絵画的で美麗な映像美は、婉麗に仕立てられた上質なオートクチュールのドレスそのもののクオリティ。
美しいシルエットを創り出すには…コルセットのような抑圧が必要になる。そんな事を意識させる、全体的に漂う艶っぽい閉塞。
どこか神話を想わせる、幻想的な世界観。
寓話が現実をモチーフに創り出されるのであれば…私たちは現実という名の幻想の中を生きているとも言えてしまうかもしれない。
物作りには、ひとつの目標がある。
鉄則と言ってもいいかもしれない。
それは『魅力的』に仕上げること。
色や形、香り、肌触り…音も。
無意識のフェティッシュ。
無自覚の偏愛を刺激して…
魅惑する。
サテン地の艶めく滑らかさのクオリア。
アンモラルな雰囲気を醸し出す清廉。
柔らかい肌触りに秘められた恍惚。
衣擦れの音に抱く…背徳感。
禁断に触れて、甘美なる愉悦を得るように…
美は求められて初めて、価値を得る。
ひとりの女性が、選ばれ、ミューズとなり…
美しく仕立てられていく。
その重層的な表現。
その最中、互いの関係が変質していく様。
抑圧の中で、主張する自我。
その欲望と主張の絡み合いが…
なんとも享楽的で、色っぽい。
自分の中の『異形』が噛み合う…何か。
本能で求めるもの…
究極まで削ぎ落として考えれば…
それは『求めて、求められる』ということ。
繋がりを求める。
繋がりたいと欲する。
絡み合う自我。
美しくも官能的な作品だった。
PTA作品らしい浮遊感もしっかりと味わえる…ダニエル・デイ=ルイス引退作。