茶一郎

ドント・ウォーリーの茶一郎のレビュー・感想・評価

ドント・ウォーリー(2018年製作の映画)
4.1
 青木ヶ原樹海で迷っていた(『追憶の森』)ガス・ヴァン・サントが原点に立ち返った優しいセラピー映画、そしてルーニー・マーラの三変化が堪能できる目に優しい映画『ドント・ウォーリー』。
 本作は実在の「世界一皮肉な風刺漫画家」と言われたジョン・キャラハンが、アルコール中毒と過去のトラウマから解放されるまでを描く作品でした。

動画でのレビューはこちらです。
https://www.youtube.com/watch?v=_Kb91F4dQJU

 本作『ドント・ウォーリー』は『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』でコラボした今は亡きロビン・ウィリアムズが当時、企画を監督に持って来たという事で約20年温められてきた作品です。そのため最近のジャパニーズ・スピリチュアリズムに浸っていたように見えるガス・ヴァン・サント作品(『永遠の僕たち』、『追憶の森』)とは一変して、全編が非常に優しいポートランド三部作以後の初期作に近い雰囲気を味合う事ができます。

 物語はアルコール中毒の青年、主人公キャラハンが過激なハシゴ酒をした夜に、交通事故に遭い車椅子生活を余儀無くされる冒頭から始まります。しかし、車椅子生活になってもまだお酒を飲もうとし介護人に暴言を吐く始末。いかにしてこの傲慢な男キャラハンが世界一有名な風刺漫画家になるのか、とその過程を映していきます。
 「傲慢な主人公が人との出会い、カウンセリングを通じて自己実現を成し遂げる」という概ねのお話は、こう文字に起こしただけで『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』の同一のものと分かります。この『ドント・ウォーリー』では、後に恋人となるセラピストのアヌー(ルーニー・マーラが抜群の尊さ!)と、キャラハンが参加する事となる禁酒会の主催者であるドニー(ジョナ・ヒル)との出会いが主人公キャラハンを変えていきます。
 そして本作は、そのドニー主催の禁酒会での集団カウンセリングなど基本的に主人公キャラハンが「誰かに話している」内容が語られていく、全編、観客がカウンセラーであるカウンセリングのような構造を取っていきます。この構造のせいで、回想中の人物が回想をするという回想中回想が生じているのはご勘弁下さい。

 全編がカウンセリング、そしてマット・デイモンとロビン・ウィリアムズの関係、また『小説家を見つけたら』のような師弟関係的男の友情を描くなど、やはり初期の監督作に近い要素が組み合わさりますが、この『ドント・ウォーリー』を見ていて思い出すのは『グッド・ウィル・ハンティング』だけではありませんでした。 主人公を演じたホアキン・フェニックスがロビン・ウィリアムズの顔をモノマネする中、主人公キャラハンのアルコール中毒の原因が判明するとそのロビン・ウィリアムズがリバー・フェニックスに見えてくるのですから不思議です。
 ここで主人公が見ていた幻影は、まさにリバー・フェニックスが『マイ・プライベート・アイダホ』で見ていた幻影と重なり、ジョン・キャラハンという陽気なアウトロー風刺漫画家の根っこには自由奔放に旅をしていたリバー・フェニックスがあると気付きます。(車椅子を使い過ぎ、介護士から怒られるシーンがあるほど、キャラハンは車椅子で旅をしていた)

 さて、その幻影から背中を押されたキャラハンは禁酒会でドニーと出会い、ドニーに自分の過去を赦す事を教わります。そしてアヌーには創作の美しさを知り、キャラハンは過去のトラウマを「風刺漫画を描く」という創作によって解放していきました。何とも美しいカウンセリングと、「創作」というセラピーの映画『ドント・ウォーリー』、久々にガス・ヴァン・サントの映画でこれほどまでに爽快な喉越しを感じた作品です。
茶一郎

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