ひでやん

シークレット・スーパースターのひでやんのレビュー・感想・評価

4.8
心を揺さぶる絶望と希望の波状攻撃。

厳格な父親から歌うことを禁じられた少女が、動画サイトで顔を隠して自分の歌を披露したところ、その歌声が世界中に広がっていく物語。トントン拍子に夢への階段を駆け上がるサクセスストーリーかと思いきや、何度も階段から突き落とされるので胸が痛い。七転び一起きという感じで、起き上がりが足んなくて転びまくり。

父の外出で天国になり、父の帰宅で地獄になる母と子。心ない罵声や暴力で心が枯れ、訪れた平穏に安らぎを覚えた時、父が帰る。鬼の仕打ちに泣いて、鬼の居ぬ間に笑って…。

とにかくバカ親父にイラつきっぱなしで、ギターの弦をぶった切った時は唖然とした。雨、晴れ、雨、雨の前半はしんどかったが、希望の糸を手繰り寄せる後半は感動的だった。

不機嫌なインシアに鬱陶しくつきまとうチンタン、籠の中から飛び立つインシア、男尊女卑の世界と闘う母。それぞれが石に向かう水滴のようだが、その力は強く強く、やがて石を穿つ。

ツンが9、デレが1のインシアを真っ直ぐな心のチンタンが穿つ。手のひらに書いたパスワードや、壁越しに伝えた想いが可愛いかった。

音楽プロデューサーのシャクティを清らかなインシアの歌声が穿つ。レコーディングの場面は鳥肌が立ち、心が震えた。

絶対的な夫の支配を娘を応援する母の愛が穿つ。空港の場面は鬱積した重たい感情を浄化させてくれた。

ステージの上でインシアが歌い、拍手喝采の中にいる娘の姿をバカ親父がテレビで見る事を期待したが、感動的に裏切ってくれた。「シークレット・スーパースター」というタイトルがダブル・ミーニングとなり、母にスポットを当てるラストに泣いた。そんな感動の余韻をエンドロールが吹き飛ばしたが、それがインド映画らしさだね。
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