みほみほ

ある少年の告白のみほみほのレビュー・感想・評価

ある少年の告白(2018年製作の映画)
3.8
⛪2020年348本目⛪

終わった瞬間にまず思ったのは…実話なの?!という驚きでした。殆ど前情報を入れていなかったので、結構衝撃的だったのと…割と最近の話なのに、こんな事がまかり通っていた事実が恐ろしかった。

同性愛者に対しての思想の押し付け。規則を破ったものに対しては、悪魔祓いにも似た激しい処置がなされ、まるで強制収容所や精神病院のようだった。

カルト宗教のような恐ろしさを持つ施設であるにも関わらず、内容は殆ど外部に出る事もなく、人の心に無理矢理踏み込んで、心を壊して感情を押し殺させるような乱暴なやり方で、人の思想を破壊していくおぞましさ。まるで看守気取りの職員から出た暴言が辛かった。こんな差別主義者のような人間を職員にするとはね……

神様という存在を振りかざしながら、同性愛者を洗脳にも似た力でねじ伏せていく施設長の残酷さに胸がざわついたし、聖書が呪縛となって、恐ろしい思想が正論のように飛び交い、同性愛者を潰していく。なんという…地獄絵図。やはり人間が地獄を創っているんだなと言うのがよく分かる。


近年、LGBTQがよく話題になり、あまりにも騒がれる為に、正直過剰反応過ぎる気がしていた私だが……こういう実態をまざまざと見せつけられると、だからこそ声を上げ続けているのだと理解する事が出来るし、今作を見て考えさせられる問題は、私にとても大きい影響を与えた。


終盤のニコール・キッドマンの言葉には、安堵して思わず泣いてしまったし、誰が正しいとか誰が悪いとかではなく、両親共に苦しみ、皆がいっぱいいっぱいだった事が伝わってくる。だからこそ難しい問題なんだろうね。


何故同性を愛してしまうのか?それは本人にも分からない事だけど、愛する事は悪い事ではない。そんな人達を排除したり、乱暴に無理矢理ねじ伏せるのではなく、尊重する社会を目指して、それぞれが暮らしやすくなる為にも、世界が少しずつ変われば良いと思う。

ただ今作の神父ではないけれど、自分の置かれた立場や思想から、同性愛者を理解する事が容易ではないのも事実。私自身も、もし子供が同性愛者だとしたら…と考えると、尊重してあげたい気持ちと、現実的な壁との間で、本人が苦しむ事を考えると、きっと何が正解か分からなくなって、もがく事になると思う。
だからこそ、親の事は全く責められなかったし、それは今作の青年も分かっていたことだろうから、簡単な問題ではないという事を痛感した。


ジョエル・エドガートンが一見ちゃんとした人に見えて、とても恐ろしい人間だった。この役柄はかなり印象的で、強烈に印象に残る。
監督・脚本を担当しながら、自らがこの役柄を演じるというのも、彼の伝える事への熱意を感じて感激してしまう。


主人公の青年役の俳優さんの、繊細な表情が素晴らしい。透き通った向こう側に見える心の陰が、見事に体現されたような人だったし、他の作品でももっと沢山観たいなぁ。


ラッセル・クロウは、どれだけぶくぶく太って凄い厚みになろうとも、顔の原型がかっこよいから素晴らしい。何故あんなにも顔を維持できるのか…とても興味深い太り方で、なんかまた好きになってしまった。

声がとても深くて低くて、良い。映画の予告か?!って思う程の、低くて印象に残る声質に、台詞喋るだけで痺れました。あの声、唯一無二で大好きです。


ニコール・キッドマンは毒のある役から、哀れな役から、ずる賢い役から何でも見てきたけど、今作では夫を尊重しながら、足並み揃えて生きている控えめな妻という感じで、そんな母が最後に決意して夫に立ち向かう姿は、胸を打たれました。


思っていた作品と雰囲気が違ってびっくりしましたが、最初から最後まで惹き込まれる作品。沢山の人に観てほしい意義のある作品に思えました。
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