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愛と希望の街のutakoのネタバレレビュー・内容・結末

愛と希望の街(1959年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ある小都市の駅前。靴磨きの女たちに混じって一人の少年が鳩を売っていた。そこへ会社役員の令嬢京子が通りかかり、その鳩を七百円で買う。少年はお金が要るから鳩を売るのだと言う。京子は同情するが、実は鳩の帰巣本能を利用した巧みな金儲けだった……。「鳩を売る少年」のタイトルで書かれた大島オリジナルのシナリオで、若干27歳で監督に抜擢された大島渚監督の記念すべき長編デビュー作。
(映画.comより)

1959年製作。62分。モノクローム作品。
貧しい家に生まれた少年、正夫(中三)は、家計のため道端で鳩売りをしていた際、京子(精密器械会社重役久原の娘・高二)と出会い、『鳩を買いたい』という彼女に鳩を売る。
正夫は、病気がちの母と妹と暮らす三人家族。正夫の進学を心配する母、動物の死骸と遊ぶ泣き虫の妹…家族の為なら自己犠牲も厭わない正夫の直向きさ、その姿に惹かれてか正夫の世話を焼き始める京子。強者が弱者に手を差し伸べる理想のカタチではあるけど、境遇の違う多感である年頃の二人の心中深く描かれていませんが、目の前の現実に純粋である二人は切なくも逞しく映りました。

鳩の習性『帰巣本能』を利用した鳩売りは詐欺行為。売ってもまた帰巣した鳩を売ることを家族ぐるみで意図してやっている正夫。これも貧しさゆえ生活するための唯一の手段。仕事を世話してくれた京子やその家族、担任にまでその事実を知られてしまう展開はずっしり。飛び立とうとしても上手くいかず、貧しい者は貧しさから抜け出せないリアルが「帰巣本能」に重ね観れて、このあたり深い心理描写がないぶん考えさせられました。

「貧しさの連鎖から抜け出せない正夫の柵」を断ち切ってくれるようなラストは、京子が女神に見えたし彼女の存在は淡い救いになっています。
格差社会における夢や理想が詰まった今作は現代にも響くものがあるなぁと、製作された時代との対比をしながら楽しみました。

重厚なテーマで描かれるデビュー作、
さすが大島監督と唸ってしまった。
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