こたつむり

15時17分、パリ行きのこたつむりのレビュー・感想・評価

15時17分、パリ行き(2018年製作の映画)
3.9
♪ ひとは誰でも しあわせさがす           
  旅人のようなもの

テロリズムを阻止した英雄たちの物語。
…と見せかけて、これは自己肯定の物語だと受け止めました。英雄と言っても普通の人間。畏れ、昂り、祈りの感情があるのです。

また、彼らを眺める周りの人たちも同じ。
英雄を祀り上げ、想いを重ねるのは自身を肯定すること。だから、古今東西、ヒロイズムを描いた物語は廃れることがないのです。

そして、そこに至る道筋を丁寧な筆致で描いたのがクリント・イーストウッド監督。凡百なサスペンスとは一線を画す作品に仕上がっていました。

特に面白いのが、一見して若者たちの“旅行記”に見えること。オランダで羽目を外したり、イタリアでナンパしたり。旅を満喫している姿に十分な尺を割いているのです。

また、明度が高い映像もホームビデオのよう。
彼らが辿った軌跡の中で僕が行ったのは“コロッセオ”だけですが、その土地の空気感を上手く掴んでいたと思いました。その本質を見逃さない視線は見事な限り。またローマに行きたくなりましたよ。

そして、渦中に巻き込まれた人たちが“本人”を演じたことに違和感を抱かなかったのも感嘆の極み。些細な英語のニュアンスは分からないとしても、西洋の人たちは“日常の延長線上”に映画があるのではないか、なんて思ってしまいました。

そして、それこそが監督さんのメッセージなのでしょう。研鑽を積み重ねた先にあるのが「祝福の光」だと主張するための配役。俳優を主演で起用しない…という“賭け”に成功した瞬間でもあります。

まあ、そんなわけで。
結果に辿る軌跡を丁寧に描いた作品。
一見して掴みどころがない作品ですが、それが“売り”ですからね。流れに沿うように鑑賞するだけで気持ちが良かったです。

あと余談ながらに。
原題を直訳した邦題が素敵でした。
直接的な表現でいて、製作者の気持ちを想像する余地がありますからね。配給会社の無粋な誘導なんて要らないのです。
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