さいごん

万引き家族のさいごんのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.7
ヤフーニュースの何かの是枝監督の記事でふと目にした「ドキュメンタリー出身だけあって社会問題を描く監督だから云々」というコメントがやけに記憶に残っている。
確かに現実かと思うほどナチュラルに描く人ではあるし、この映画に限らずだが社会は社会でしっかり背景に描いている。
でも是枝監督は一貫して「社会問題」なんかではなく「その社会で生きる人自身」を描き続けている人だと思うんだけどなぁ。

まぁそれ以前のところでこの映画は当時諸々あったんだけど、少なくともこの映画自体は政治思想みたいなところとはハッキリ切り離された作品だという事だけは言っておきたい。

さて、ようやくちゃんと感想に入りますが、まずは客観的に見て是枝監督の集大成的な作りで、ある程度のリテラシーがあれば好き嫌いは別にして満足出来る作りだと思う。
特に物語のミステリーの要素がそのまま人間関係の緊張感にも繋がっていて、単純に面白い映画になっている。

そこに分かりやすいほどに「家族とは何か」のメッセージを乗せているんだけど、上手いのはあの家族をどこまで家族として認められるかは観賞する側の価値観によって決まるようになっている事。
かと言って結論を放り投げているわけではなく、途中のフィクショナルな展開からむしろ最後は現実的な着地になっていると言えると思う。

個人的に1番好きな場面は花火のシーン。
光は見えないけれど、音だけが聞こえてそこに家族全員が集まる。
コップに水が半分入っているのを見て「半分しかない」と捉えるか「半分もある」と捉えるか...というのと同じであのシーンを幸せと捉えるかどうかがやっぱり人によって違うと思う。
でも彼らがあの瞬間は同じ方向を見つめている事だけは確かで、それは僅かでも幸せな瞬間だと捉えたいと思ってしまう。
またね、そこでカメラが上から撮っていてちょうど彼らと目が合うわけです。
否応なしに彼らと向き合わされている感じで、なんと感情を表現すればいいか分からないけどとりあえず涙腺決壊でした。

こういうディテールを言い出すとキリがないくらい映画を見る事の快感が詰まっている。
役者さんは皆本当に良かったし、美術も衣装も細部に渡って練り込まれている。
生々しい程の生(性)と死の描き方も流石だし、絶望とそこに宿る微かな希望も見せてくれるし、映画として本当に隙がないんじゃないかと言えるくらい凄い映画。

ただ、今回見返してみて改めて思ったけど生涯で何度も見返したいと思うような作りではないと思うし、自分のオールタイムベストに入れる人もそんな多くはないだろうなぁとも思う。
でもふと思い返した時に確かに何かを自分の中に残している存在になっている映画だと思います。
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