田島史也

万引き家族の田島史也のレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.3
タイトルを即座に回収するかのように、万引きのシーンから幕を開け、なるほどタイトル通り万引きをする家族のお話なのだなと容易に理解が進む。社会の片隅で真っ当には生きられない人々が集まったボロ屋の中で繰り広げられる、質素であたたかな暮らし。ああ、犯罪は犯しているが健気に生きているのだなぁと、しんみりするが、犯罪は犯罪なのである。社会という枠組みからはみ出した彼らにとって、ボロ屋の外にもはや安息の地など無い。家族への同情とは裏腹に、警察という正義の残酷さが心に突き刺さる。単なる善悪二元論的な話ではないことが本作のみそ。この世界では誰もが生きることに必死なのである。人間は社会的存在である以前に一種の動物なのである。誰も悪くないように思えてしまう。誰の味方をすれば良いのか分からない。それが本作が観客に突きつけた究極の選択であり、観客の心を弄ぶかのように、我々からも心の拠り所となる安息の地を奪うのである。強制的にこの問題に参加しろと言わんばかりに、我々は知らず知らずのうちに当事者となるのである。
ああ、なんて映画なんだ、と思う。心が締め付けられる。だが、この気持ちの正体が一体何なのかは、いつまで経っても分からない。
田島史也

田島史也