takuro

万引き家族のtakuroのレビュー・感想・評価

万引き家族(2018年製作の映画)
4.6
万引き家族

レビュアー試写会にて鑑賞。

是枝監督らしい「家族として生きること」を軸に、あらゆる人の内なる感情や生活にスポットを当て、生きる上での不条理と大切なものを細かく描き切り、鑑賞者に色んなことを考えさせてくれる傑作であった。

今までの作品では、父親、子どもなど、家族の中でのいずれかにスポットを当てる作品が多かったが、今作はあくまで個人個人にしっかりとスポットが当てられており、人の生活の多様性とそれを邪魔する不条理さと抗わざるを得ない人の弱さとそれでも一緒にいたいと願い努力する強さとそれでも裏切ってしまう弱さと、そんな人生の中で大切なもの…あらゆるものが詰まっていて、生活と人間らしさと温かさと冷たさを感じられる。
本当に是枝監督の今までの集大成と言える素晴らしすぎる作品だったと思います。

人は自らで選択をできるからこそ、生きることに幸福感や満足感を得られるはずなのに、現実は必ずしもそうとは限らない。

それを一番重く受けるのが非力な子どもたちであることは言うまでもなく、子どもは勝手に親を決められ、生きる中で自らが選択をしながら生きることは基本できず、ほとんどは大人の言いなりであり、大人の言うことが絶対の世界の中で生きないといけない。

今回は誘拐(というよりも駆け落ちに近い)という形で、連れ出してもらえたからこそ、人の温かみを知ることができ、生きることのささやかな喜びと幸せを噛みしめることができた。
それなのに現実や大人の都合が一気にそんな日常を幻想に変えてしまう。
それが不条理なことであるとは深く考えずに、(いわゆる世で言われる)血の繋がっている本当の家族のもとに戻すのが正しいという変えることなき正義を軸に…そこに子どもに選ぶ権利というものはそもそも存在していない。
子どもの想いは置き去りにされている。

そこに対して問題定義をしながら、家族のあり方を今一度考えさせるように個人にスポットを当てて物語が進行していく。
是枝監督はあえて今作の中で、家族を個の集合体として描いていることがとても印象的であった。

家族だからというおしづけがましさがなく、あくまで個人としての集合体であり、みなが自分の意思を持つ1人の人間がたまたま集まって生活をしている集団。
だからこそ、その中には命令や上下関係を作って支配することそのものがなかった。
自分が正しいと思ったことを行い、違うと思ったことは子どもでも親にちゃんと指摘する。
あくまで対等な関係である。
自らが考えて選択をきちんとした上で成り立つ集団の生活こそが本当の家族のあり方であり、だからこそその中に人間らしい温かみが生まれるのではなかろうか。
それを是枝監督は伝えたかったのではなかろうか。

日本では生まれながらに見えない上下関係がすぐにできあがっている。
その最たるものが家族であり、大きくなれば義務教育の先生と生徒の関係、さらに大きくなれば上司と部下の関係と…いつのまにか考えて選択をすることのできない流される人間ができあがる。
そんな集団のあり方に危機感を提示している作品であるようにも思えた。

「盗んだのは、絆でした。」
あらゆる個人が集まった血の繋がっていない家族は、あらゆるものを盗むことで家族としてやっと成り立つことのできる非力な集団でもあった。
そんな家族には、それぞれに素敵な温かみがあるにせよ、法によって裁かれる厳しい現実の中ではいとも簡単にバラバラにされてしまう。
あらゆる盗みの果てに、絆までもを勝手に盗んでしまっていた。
万引きしか教えることのできない弱い父親と抱き締めてあげることしかできない弱い母親である。
でもそれまでの家族としての生活や父親母親としての温かさと優しさは本物であり、誰もがそんな生活と人の温かさに救われていたに違いない。
たがら何が正しいかなんて法律だけで判断できない深いものがあるんだなと。

子どもは本当に正しい選択をできないのか、逆に大人は必ずしも正しい選択をできるのか、勝手に子どもを下に見てないか。
自問自答しないといけない。

誰もが自らの人生を、しかるべき選択をしながら、歩んでいけることが当たり前になる世の中に。
集団の重さや尊さまでもをその人自身が決められる。
幻想とはわかっているものの、そんな現実であれば人が人らしく幸福感を持って生きることができる世の中になるのではないだろうか。

こんなに難しいテーマを他人事にするのではなく、自分事にして考え悩み尽くして、一つの作品として作り上げる。
これが是枝監督。尊敬せずにはいられない。
感動の連続であった。

どんな生き方をするか、どんな家族を作るか、どんな世界観を作るか、それをどのように実現するか。
今一度立ち止まって考えてみたくなった。
そんな今作は、普段映画を観ない方、邦画を観ない方も、これだけは本当に観て欲しいと言える大傑作の映画でした。

P.S.
キャストそれぞれの演技がよりこの世界感を引き立てていて、家族の一員に本気で加わりたくなった。気づいたら「万引き家族」に没入していた。
リリーフランキーや安藤サクラ、樹木希林は言うまでもないが、何より松岡茉優がやっぱり凄いなーと改めて思えた作品。
子役も相当すごい!!
鑑賞後に思ったけど、万引き家族の「万引き」とはあらゆるものがかかってる。
2018年ベストが入れ替わりました。